2016年01月05日
まっすぐに挑戦し続ける、
「中川 隼人」のつくられ方
今回の主人公 中川隼人との出会いは8年前。彼の採用面接で、面接官だった私の頭は混乱した。面接になっていなかった。そもそも会話にもなっていなかった。彼が話すのは、当時夢中になっていたゲームの話。こちらが何か質問しても、自分の話を続ける。ところどころ、言葉にすらなっていない。頭のなかのモヤモヤが、そのまま口から出てきているようだった。
彼の採用を決めるのは、かなり勇気が必要だった。
誰もがおどろく、大変身
そんな彼だが、コーディングファクトリーの立ち上げ時からコーダーとなり、現在はBtoB Webサイト制作サービス でディレクターとして活躍している。お客さまとの窓口になり、社内外の制作担当者とやりとりしながら、「対話」が中心の仕事をするなんて、「人って、こんなに変われるんだ」という見本のよう。
大きく変われたその理由を聞いてみると、いとも簡単なことのように答えてくれた。
「うまくできないことは、できるまで繰りかえしやる。」
言葉では単純だけど、彼のくりかえしの回数や期間は普通じゃない。
たとえば、コーディングファクトリーのメンバーになった当初。彼はいちからページを完成させるスキルがなかったため、他の人が作ったソースの修正だけを、毎日ひたすら1年間続けた。その結果、バリデートチェックにたよらずにミスが発見できるようになった彼の当時のあだ名は、「リント君」。(※リント(Lint)・・・コーディングのミスを発見するバリデートチェックツールの名前)。
マシーンのように速く正確な彼のチェックに、他のコーダーたちは恐れをなしていた。
また、スケジュール通りに仕事を進めるのが苦手だったコーダー時代。段取りを考えて、かかった時間を記録しつづけた。計画通りできなかったときは、うまく進められなかった理由を分刻みで振りかえる。黙々と記録しつづけた5年間の実績表は数センチの厚さになった。そのおかげで、彼の工数計算は分単位で間違いない。
「あ、そのページのコーディングだったら18分くらいかな。」
誰よりも早い。そしてその通りの時間で完成する。
もちろん、元「リント君」だけにあいかわらずコーディングにミスはない。
移り変わりのはやいWeb業界で、彼のそんなやり方は、カメの歩みのように見えるかもしれない。しかし、そうやってひとつひとつ自分で積み重ねた小さな成功と失敗の経験は、検索してすぐに「知っている」つもりになる薄っぺらな情報とはちがって、彼の言葉と行動の深みをつくっている。
かなりメンドウな、おせっかいの凝り性
彼の印象をまわりのみんなにも聞いてみた。
「おせっかい」
新人さんが入社するたびに、あれこれと教えたがる。緊張している新人さんには、聞かれてもいないのに初日から自分のディープなプライベートまで話してうちとけようとする。「俺んちで飲まない?」と誘われた人も数知れず。しかも男女問わず。(でも下心はない、たぶん。)
「凝り性」
かなりのパソコンおたく。誰かのパソコンが新しくなると、インストールやら設定やら、彼のありったけの知識を駆使して対応してくれる。(対応したがる。) ところどころ、頼んでもいないのに彼好みの設定になっている。聞いたこともないアプリが入っている。そして、「このアプリいいっすよ」からはじまるウンチクはかなり長い。
「決めたらずっとやる」
もちろん仕事だけじゃない。同じ店のラーメンを1か月間食べ続けた。みんなの灰皿は、5年ほど彼が毎日掃除した。面倒なのは、そのせいで、灰皿の使い方チェックが朝ドラの姑なみにうるさいこと。
そういえば、採用面接のときのゲームの話も、ひたすらやり続けて世界で一番になった話だった。
「空気を読まない」
まわりを見ない。根回しとか考えない。となりで困っていてもなかなか気づかない。だけどそのわりには、彼の人間観察はこまやかだったりする。実は、空気を読まない「ふり」をしているのかも?そんな疑惑もあるらしい。
こうしてみると、ちょっとネガティブな言葉も多いのに、「隼人ってさぁ・・・」 というときのみんなの顔は、いつも笑顔。そして何より、社内の誰もが、彼とのエピソードを持っている。いつのまにかモノサスになくてはならない存在になっていた、愛すべきキャラクターなのである。
やり続けたことで、みのったこと
今、ディレクターとして活躍している彼の目下の課題は、「お客さまに納得してもらえる話ができるようになること」。ずっと制作をしていたので、Webサイトのことはわかっていても、それをお客さまに伝えるのは難しい。
「こうしたほうがいい」「こうすればプロジェクトがうまく進む」ということを、相手に納得してもらえるように話すにはどうすればいいのか。
相手の立場に立って、言葉を選ぶこと。
時には相反する意見をまとめながら、ものごとを進めること。
入社したころの彼にとって、もっとも苦手だったことが、今の彼の仕事になっている。
そんな彼のことを考えていて、私はふと気づいた。
「そうか、私がいろいろなことに挑戦しつづけられてきたのは、隼人の存在があったからかもしれない。」 と。
やり続けることで、たくさんのことができるようになった彼。壁に突きあたっても、投げ出さずにやり続ける彼。新しいことに挑戦するとき、そんな彼となら、うまくできる時が必ず来る、と信じて前に進むことができた。
いつのまにか、彼は私にとって「導くべき部下」から、「いっしょに挑戦する仲間」になっていた。
まだまだ未完成のモノサスでは、これからも予想もしないことや、うまくいかないことはたくさん起こるだろう。そのたびに彼は「できないこと」に挑戦して、やりつづけ、「できるようになる」。そして、これからは彼自身が、そんな仲間をひとり、またひとりと増やしていってくれるに違いない。