Mon.
12
Dec,2016
上森 拓
投稿者:上森 拓
(デザイナー)

2016年12月12日

チョコレートから考える「いいデザイン」の定義

デザインの目のつけどころ

上森 拓
投稿者:上森 拓(デザイナー)

デザイン部の上森です。

先日、某有名店から購入した、カカオ多めの高級チョコレートを食べた時のことです。
率直にいうと、どう考えてもおいしくなかったわけです。甘くないし、苦いし、なんか漬物みたいな臭いがする…(笑)
この高級チョコレートは、甘くて、クリーミィで、嫌なことを全て忘れさせてくれる、僕の中での「チョコレート」とは程遠いものでした。
ブラックサンダーの方が断然おいしい…と。

しかし、周りの人たちは「おいしいおいしい」と喜んでいます。
おいしいわけないがな、どんな舌してんねん。と僕は驚いたわけですが、
同時になぜこんなに意見が分かれるのかと不思議に思ったのでした。

人それぞれのおいしさの定義は何なのでしょうか。
私はこのことに関して調べてみることに。
すると意外にもWebデザインとの共通点がみえてきました。
今回は〝おいしいチョコレート〟から考える〝いいデザイン〟の定義についてお伝えします。
 

おいしさを感じる4つの要因

大関株式会社総合研究所製品・技術開発グループ 菅野 洋一朗さんの論文「“おいしさ”の定義」(http://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9104/9104_biomedia_4.pdf)
によると、「おいしい」と感じる要因は4つに分類できるそうです。

「生理的なおいしさ」
体に必要な栄養素を含む味を美味しいと感じる感覚で、スポーツ後に塩分が欲しくなるような現象として生じる。

「文化的なおいしさ」
幼少のころから食べ慣れた味を美味しいと感じる感覚で、いわゆる“おふくろの味”である。

「情報によるおいしさ」
高級、本格的という情報が与えられたものに対して感じる感覚で、“通の味”とされるものが例として挙げられる。

「やみつきのおいしさ」
砂糖や油といった脳の神経に直接快感を与えるものに感じる感覚で、ポテトチップスなどはその最たるものである。

この4分類に先日の高級チョコレートを当てはめてみると、「おいしい」と言った人は、

  • お腹が減っていた(生理的
  • この味を食べ慣れている(文化的
  • 高級チョコレートだからおいしいのだろう(情報的
  • 油や砂糖によって神経に快感を得た(神経的
     

のどれかに値する。もしくは4つの割合からの「おいしい」なのでしょう。

私にとっては、あまりに馴染みのない味だったので〝おいしくない〟と判断しましたが、すごくお腹が空いていたり(生理的)、私にとって馴染み深いものだったり(文化的)、すごくミーハーだったり(情報的)、砂糖ジャンキー(神経的)だったら、私も〝おいしい〟と感じていたことでしょう。

なるほど、〝おいしい〟と感じる要因は4つに分類でき、それぞれを占める割合が人によって違うのね。とわかったところで、さらに興味が湧くことがありました。

それは、この〝おいしい〟の分類分けは、デザインにもいえることではないか?
〝おいしい〟の定義が人それぞれあるように、〝いいデザイン〟も人それぞれあるように思います。それが解れば仕事がしやすくなるかもしれません。
長くなりましたが、ここからが本題です(笑)


 

デザインに当てはめて、かんがえてみる

一つのデザインでも、良い/悪い、好き/嫌いは、人によって様々ですが、
先ほどの〝おいしい〟の視点をデザインに当てはめて、4つに分類してみました。
(あくまでも私の独断による分類です)
 

4つの分類を「デザイン」に当てはめる

「生理的にいいデザイン」
心地いい、使いやすい、など、人間本来の感覚的部分を重視してデザインされたもの。例えば、人間工学を取り入れて作られた、座り心地のいい椅子や、人間社会の常識を持たない赤ちゃんが、つい遊んでしまうもの。押してみたくなったり、引っ張りたくなるようなオモチャなど。

「文化的にいいデザイン」
生まれ育った国の文化や、周りの環境などによって、普段よく接触するものや見慣れたものを良いとする感覚が用いられたデザイン。見慣れた装飾、使い慣れた道具は落ち着くのかもしれません。

「情報的にいいデザイン」
有名デザイナーまたは有名企業によるデザインはきっと良いものだろう…という風に、情報的な見方で良いとされるデザイン。ブランド力ともいえるかもしれません。

「神経的にいいデザイン」
……脳神経に直接働くデザイン。やみつきになるデザインとはなんでしょうか。
これに関してはいまいちピンときていません。旧ソ連が使ったプロパガンダ戦略的なものでしょうか。人を洗脳することなどが当てはまるかもしれません。

どうやら〝おいしい〟の4分類はデザインにも当てはまりそうです(たぶん)。
これはデザインに限らず、物事に対しても、好ましいか好ましくないかの印象を左右する大きな要因なのではないでしょうか。
 

Webデザインにからめて、もうちょっと深掘り

〝おいしい〟の4分類がデザインにも当てはまりそう、ということから、私の仕事であるWebデザインに絡めて、もう少し深堀りしてみようと思います。
 

4つの分類を「Webデザイン」にあてはめる

「生理的にいいWebデザイン」
人間本来の気持ち良さや心地よさなど、快適さがある〝気持ちいいWebデザイン〟や、欲求を起こしたり、欲求を叶える〝そうしたくなるWebデザイン〟が考えられます。
ユーザーに操作方法を考えさせたり覚えさせる負荷を与えずに、自然と使ってもらえるデザインは、生理的要因を上手く生かした〝いいWebデザイン〟といえます。

「文化的にいいWebデザイン」
これは根深い要因かもしれません。本人の意思とは関係なく感覚に染み付いているものだからです。慣れ親しんだデザインを良いとする感覚であれば、見慣れないデザインには戸惑ってしまいがちです。ある場所では一般的で高い評価がされているものでも、別の場所では全く理解されないこともあるでしょう。私が思う最高にカッコイイデザインが60歳近い母に理解されることはまずありません。

Webデザインでいうと、ヘッダーは上にあり、上から下にスクロールしてページを見る、ローカルナビは左。という定番や暗黙の了解、慣れが該当するでしょうか。
特にWebデザイナーはデザインをする際、ターゲットユーザーがどんな人たちかを考え、ある程度年齢が上の人が使うと想定すれば、
ある程度一般的なUIを採用し、使い方に慣れや学習が必要な斬新すぎるものは避けるなど、文化的要因をUIで意識することが多いように思います。

「情報的にいいWebデザイン」
たとえば有名デザイナーによるデザインは、見ただけで「流石っ」と思うかもしれません。もしくは見る前から良いデザインだと決めつけていたりします。しかし、無名のデザイナーが同じクオリティのデザインを作っても、説明を受けないと理解できないことがあると思います。社内でも新米の私がアイデアを出すよりも、上司を通して出す方が通りやすかったりするように(笑)

「神経的にいいWebデザイン」
もし脳神経に直接働くデザイン手法があるとすれば、企業はこれを使わない手は無いですね。もう使っているかもしれません。でも、ポテトチップスはおいしいけど体に悪いからやめておこう。というような考えと同じように、受け手側にも自制が効きそうです。
僕としては、このデザイン手法があったとしても、使ってはならないと思います。料理人が中毒性があるような食べ物を提供していたら少し怖いですよね。そんな感覚に近いです。
でも受け手側が最終的に幸せならべつにいいのかも。すみません、考えすぎました。


 

この考えは仕事につかえるかも & まとめ

この〝いいデザイン〟の分類分けを踏まえて、なにが出来るか考えてみました。
思い当たるのは、エンドユーザーとクライアントの思考やタイプを探る手がかりになって、より満足度の高いデザインを作ることができるのではないかということです。
4つの分類をバロメーターの図で表し、この案件では生理的よさを、この案件では文化的よさを、というように、どこを重視すべきか考えてみるのもいいかもしれません。

また、クライアントも含め、プロジェクトのみんなが〝いいデザイン〟を目指しているのにもかかわらず、意見が食い違ってしまうのは、〝いいデザイン〟の感覚が人それぞれ異なり、様々な形で存在するからでしょう。そこで、この4つの分類をもとに「なにをもって〝いいデザイン〟とするか」プロジェクトに関わる全員で共通認識を持つことができれば、制作進行はよりスムーズになり、クオリティも違ってくるのではないでしょうか。

もう一つ、個人的に思ったことは、良し悪しや好き嫌いは人それぞれなので、自分がいいと思うものが本当にいいものなのか疑ってみようということです。自分でも知らないうちに文化的や情報的にものを見ている場合があるからです。自分の感覚を疑うことで、相手の意見を聞く余地も増えると思います。チームで案件を進める場合は、メンバーの意見にも耳をかたむけつつ、そのうえで自分が〝いい〟と思う感覚を発揮するべきといえます。

また、自分を疑うことは経験を重ねてベテランになるほど見失いがちかもしれません。周りの人が情報的に自分を評価するからです(良い評価の場合にかぎる)。信頼といえば良く聞こえますが、情報的な見られ方に甘えずに本当にいいデザインを追求していけたらと思います。

一枚のチョコレートから、ここまで考えることになるとは思っていませんでした。
チョコレートを見るたびにこのことを思い出そうと思います。

この投稿を書いた人

上森 拓

上森 拓(うえもり たく)デザイナー

デザイナー。東京生まれ。いまのところ中野区民で自転車通勤。お酒はビールが好きです。昨年リラックマボウルを11個集めるという偉業を達成した。

上森 拓が書いた他の記事を見る