2016年12月15日
岩手県遠野市でハッカソン
ホップ農園で考える、IT でできること
Field Hack TONO 前編 〜フィールドワーク〜
こんにちは。編集長の中庭です。
11月4日から三日間、 Google イノベーション東北と IAMAS(情報技術芸術大学院大学) が共同開催しているハッカソン「Field Hack TONO」に参加してきました。
Field Hack TONO(以下 FHT と略称) とは、フィールドワークから発見された課題をテクノロジーで解決しようとする、岩手県遠野市で行われたハッカソンです。
ハッカソン初心者&本職Webデザイナーの私がそこで何を見てどんな体験をしたのか。
前編では、フィールドワークからアイデアワークまでおこなった遠野での三日間についてお伝えしたいと思います。
(後編では、プロトタイプの開発から発表までをお送りします。)
INDEX
その前に、説明会&チーム決め
今回の FHT では、いきなりフィールドワークから参加ではなく、自分たちでチームメンバーを探すところからはじまります。
メンバーはあらかじめ自分の周りで募ってもよいし、FHT参加説明会で仲間を探してもかまいません。
特にチームメイトもいなかった私は、東京でおこなわれた2回目の説明会にひとりで参加しました。
ちなみにフィールドワークのテーマはあらかじめ決まっており、
- ビールの里( Brewing )
- 里山( Life )
- 発酵( Fermentation )
- 限界集落( Community )
-
商店街( Tourism )
の5つのなかから選びます。私は最初から「ビールの里」を希望。
岩手県遠野市は、ビールにかかせないホップの生産量日本一。そんな遠野でビールやホップで町を盛り上げたり、課題解決のしくみを考えたりするのがこのテーマのミッションです。
そもそも私がこのイベントに興味をもったきっかけは、これまで好きだったクラフトビールに何かしら自分のスキルを使って関われたらとても面白いのではないか、という考えから。けれど、私の専門分野は Webサイトのデザインやディレクション。今回は IoT やテクノロジーを使うことが条件ですし、システムエンジニアやプログラマーしか参加できないのではないか、自分に何かできることがあるのかと、不安半分、ワクワク半分といった感じでした。
その会場にいたのが今回チームを組んだ5名のうち、4名。そのうち2名はすでに別の1名を加えて3名でチームができているとのこと。みなさんバリバリのエンジニアの方ばかりで気おくれもあったものの、ビールへの熱量がとにかく強くておもしろい!
圧倒されつつも、この人たちと一緒に参加したら絶対楽しいに違いないと直感的に思い、自分のスキルの不安はさておきチームに入れてもらうことにしました。
1日目、キックオフミーティング
東京から物語の郷、遠野へ
11月4日(金)、19時から開始するキックオフミーティングに参加するため、他チームで参加するモノサスの同僚(と元同僚)と遠野に向けて車で出発しました。
東京から北へ北へむかい、岩手県に入ったところ高速を降りると、そこには里山の美しい風景が広がっていました。
延々と続く田んぼと山々、ときどき川。柳田國男の『遠野物語』発祥の地だけあって、物語がいたるところに眠っていそうな風景です。頭の中で自然と流れはじめた「ぼうや〜〜、良い子やねんねしな♫」と日本昔話のテーマ曲とともに景色を楽しんでいると、あっと言う間に遠野市に到着してしまいました。
宿泊先に荷物を置き、いよいよ今回のハッカソンの会場「遠野みらいカレッジ」に向けて、今度は釜石線に乗って出発します。
最初にプロジェクトオーナーよりプログラム概要説明があり、すぐに自己紹介タイムです。
主催・運営メンバーの紹介、今回のハッカソンを遠野市側からサポートしてくれる Next Commons Lab(以下 NCL と略称)のみなさん、 フィールドワークで案内していただく遠野にいさん・ねえさん、最後にチームごとに参加者の自己紹介がありました。
その後、ブレイクアウトセッションという名の夕食タイムです。ここで、気合の入りまくっているチームメイトたちの持ち込み料理 & ビールのおかげで、うちのチームはいつの間にか豪華絢爛な宴テーブルとなっていました。
ここで、わたしたちのチームの遠野にいさん※こと、ホップ農家の吉田さん、NCL の田村さん、そして今年からホップ農家をはじめたという平松さんとはじめてお会いし、フィールドワーク前ですが、ホップ栽培のことなどいろいろお話を伺いました。
明日のフィールドワークへの期待がますます高まっていきます。
話が盛り上がってきたところで、あっという間にディスカッションタイム(夕食)は終了。
明日にむけて体を休めるもよし、夜のフィールドワークだと二次会に繰り出すチームも。
おのおのの夜を過ごしたようです。
2日目、フィールドワーク
足で歩き、耳で聞き、目で見て、手で触る。
何はともあれインプット
2日目のおおまかな流れ
14 : 00 ~ 17 : 30 フィールドワーク
17 : 30 ~ 19 : 00 フィールドワーク分析
19 : 00 ~ 21 : 00 懇親会
21 : 00 ~ 宿泊先のコテージへ移動
いよいよフィールドハック当日。午後2時から開始して、各テーマごとに遠野にいさんねえさんたちと3時間ほど遠野のフィールドをめぐります。
わたしたちビールチームがフィールドワークするのは、ホップ農園、ホップ乾燥所、ビール醸造所の3箇所。
一番最初は、何はともあれホップ農園へ!遠野にいさんこと吉田さんのアサヒ農園に連れて行ってもらいました。
吉田さんより伺ったことは、新しく植えたホップの株は、潤沢にホップの実がつくまで少なくとも3年はかかるということ、ツルがとても高く伸びること、農業用機械が日本ではなかなか手に入らないので海外の中古品をなんとかみつけて使っているとこと(壊れたら替えがない)、ホップの収穫は農家がチームを組んで順繰り集団で収穫しているので、自分の畑のホップを適期に収穫できるとは限らない...などなど。
なかでも印象深かったお話は、作ったホップの評価がホップ農家まで届かないということ。
遠野産のホップの多くが大手ビールメーカーへと出荷されるので、自分の作ったホップ単独での評価は得にくかったり、醸造家からのフィードバックをもらう機会もほとんどないとのこと。
また、ホップの品質評価の主要項目でもある「α酸」の含有量も、今のところ個人の農家が計測して記録することが難しいとのことでした。
その後、今年まで現役で稼働していたがもうたたもうとしているホップ乾燥所を見学させてもらいました。古くて大きな機械が並ぶその工場は、まだまだ稼働できそうな雰囲気。それでもたたむのはホップの生産量が全盛期の4分の1まで落ち込んでしまっているのが原因なのでしょうか。ホップ農家の後継者が不足しているしている問題も背景に感じます。
最後は遠野唯一のクラフトビール「ZUMONA」を醸造する 上閉伊酒造の坪井さんにお話を伺いました。
坪井さんは、ZUMONAビールの全ての醸造過程と工場の管理、さらには商品開発までおひとりでやられているとのことで、素人の私が想像しても、その作業は果てしなく感じます。一番大変なことは?と尋ねると、「設備の維持です」とお答えになっていたのが印象的でした。
そして驚くことに、「ZUMONA」を樽で取り扱っているお店は、地元遠野ではなんと一軒!都市部ではクラフトビールが飲めるお店がどんどん開店していますが、遠野にはほとんどなく、全国的にはまだまだ大手ビール以外の認知度が低いと感じました。
フィールドワークの分析
もらいたてほやほやの情報を
新鮮なうちに分析
3時間のフィールドワークから得た、自分たちの目と耳でインプットされた情報は、新鮮なうちまな板に並べるが吉。フィールドワークの分析タイムがはじまりました。
チームごとにディスカッションルーム(教室)に移動し、今日発見したことを共有、整理しながら分析します。そこで小林先生から教えてもらった分析方法としては、ひとつの発見に対し
- 誰が
- トリガー+アクション
- どのように
- なぜ
-
感情など
と分解してそれぞれをポストイットに書き出す、というもの。これだとアプローチ方法を多様な視点で考えられるということでした。例えば、「3. どのように」を他と組み替えることで、それまで気づかなかった方法論を検討・検証できるとのことです。
さて、私たちのチームも教えていただいた枠組みで、いざポストイットに書き出そうとするのですが、なんだかうまくいかない...。
今回いただいた情報はかなり多く、このままだととても時間内に終わらないというその場の判断で、私たちは先に発見事項のリストアップをすることにしました。
そしてある程度出揃ったところで、それぞれの項目を手分けして、上の1~5へ分解する作業にはいりました。
そうこうしているうちに、あっという間に分析タイムが終了。私たちのチームは結局、終わらないまま教室をあとにしました。
夜はお楽しみの懇親会タイム
分析が終わらなかったことに少し不安を残しながらも、楽しみにしていた夕食&懇親会の時間。
料理は昨夜と同じくNCL の藤田さんたちが作ってくださいました。
食卓に並んでメニューは、遠野の食材をメインに腕をふるってくださったものばかり。
ほかにも限界集落チームからフィールドワーク中に町の方にいただいたらしいお味噌の差し入れがあったりと、こころあたたまる食卓です。
この日は前日と異なり立食形式。遠野にいさん、NCLさんとざっくばらんにフィールドワークの続きのお話をするもよし、他のチームと交流をはかってもよし、そんな会でした。
3日目、インプットの次はアウトプットの時間
アイデアスケッチからのコンセプトづくり
3日目のおおまかな流れ
9 : 00 ~ 9 : 35 イントロダクション & プロダクト紹介
9 : 35 ~ 11 : 50 アイディアスケッチ & コンセプトづくり
11 : 50 ~ 12 : 50 ランチタイム
12 : 50 ~ 13 : 50 発表準備
13 : 50 ~ 14 : 50 発表・講評
15 : 00 ~ 15 : 30 遠野にいさん・コーディネーターさん含めて打ち合わせ
15 : 30 ~ 15 : 45 これからについて(開発 / 発表会・相談会)の説明
15 : 45 〜 解散!
昨夜は宿泊先のコテージで語ったり多少飲んだり?!と楽しく過ごすチームも多かったようですが、次の日の朝は8時出発。周辺には食べるところがないということで、朝早くから NCL さんが用意してくださったあったかい朝食をいただきます。
朝食で活力をつけたところで、昨日から続くハッカソンの開始です。
最初に今日の作業に関わる説明タイム。開発の参考になるプロダクトと、アイデアスケッチからコンセプトスケッチまでの説明を受けます。
この時間、ただの説明タイムではありません。これから考えるアイデアや開発の可能性を広げてくれるお話ばかり。まさにテクノロジーに造詣が深い方々の知恵や経験の結晶で、目からうろこの時間でした。
説明会のあとはアイデアスケッチに入る前の課題決めです。
「〜するにはどうしたらいいか」という言葉でチームとしてチャレンジするべき課題を考えていきます。
そこで昨日のフィールドワーク&分析をふまえた結果、
「ホップにまつわる情報の流通を円滑にするにはどうすればいいか」
という課題に集約されました。
ホップの品質に対する評価を知る機会がほとんどないホップ農家の吉田さんに、どうすれば
醸造家や消費者からのフィードバックを渡すことができるのか...。はたまた醸造家の方へ消費者のダイレクトな声を届けられるのか...。
そんな課題に対して、今度は個々でアイデアスケッチを描きはじめます。私達のチームは10分のスケッチタイムと、10分間のアイデア共有時間を1セットとし、2セットおこないました。
出てきたアイデアは実にユニーク。ホップ栽培セット、ポケモンのように町を歩いてビールをゲットしていくゲーム、ボタンひとつで野球場のビールの売り子さんのようにZUMONAサーバーを背負ってビールを届けるサービスなど、生まれたアイデアシートは40 ~ 50枚近く。
出てきたアイデアの中では似たものもいくつかあったので、一度系列ごとでまとめてみることにしました。
分けたアイデアのカテゴリーは「情報発信系」「交流系」「α酸・化学系」「文化教育」「畑」「その他」の6つ。
この中から、まずは実行不可能なもの、次にテクノロジーを使ってないものを除外していきます。
そうやって絞り込まれたアイデアは9つ。一度、それぞれを定数的に評価しようということになり、評価軸を決め、点数をつけていくことにしました。それらもすぐさまスプレットシートにまとめていきます。
この結果を絶対視するわけではなく、あくまで参考資料。その結果を参考に発表するアイデアを話し合いによって決めていきます。
この時点で残ったアイデアは2つ。
- ビアログ
-
VR酒場
ビアログとは、いわばビール版食べログのようなもの。ユーザーが飲んだビールのレートやレビューのログを残し、その数値(定量評価)や言葉(定性評価)の集積を分析し、ビールとビールに紐づくホップの評価を算出するアプリ。
「自分の作ったホップの評価がほしい」という吉田さんに、ユーザーや醸造家からの"フィードバック"をとどけるしくみとして考えたものです。
もうひとつ、VR酒場というのは、遠野以外の場所で、遠野のホップ農家の風景などをプロジェクションマッピングで壁などに投影し、ビデオチャットはもちろん、影像にインタラクティブな演出を加えて相互にコミュニケーションができるもの。
遠野/遠野以外の場所(たとえば東京のビアパブなど)、ビールの作り手/ビールの飲み手をつなげるしくみです。
それぞれのアイデアの実現可能性や利点を話し合いつつ、そもそも吉田さんの意見を伺う前にどちらかに絞り込むのはよくないのでは?ということになり、結局どちらのアイデアも発表することになりました。
フィールドハックからのアイデアソン、
いよいよ発表
NCL さんがつくってくださった昼食を食べながらひと休憩。食べ終わったのが午後1時ころでしたが、発表は2時からです。資料をまとめる時間が短い!
私は焦る気持ちを抑えながらそわそわしていたのですが、チームメイトのみんなはなんだかゆったりした様子。
いよいよ残り20分ほどとなり、途中寸劇をまじえて発表する案も出ましたが、結局はスライドにアイデアをまとめていくことにしました。
そこからは超特急。ビアログとVR酒場のアイデアをそれぞれ分担し、資料をつくっていきます。
スライド作成は少しだけ発表時間に食い込んでしまいましたが、なんとか完了。
全5チームのうち、私たちは4番目に発表です。
発表時間は5分。どのチームも短時間でよくまとめています。
私たちは2つのアイデアを発表するので駆け足でしたが、昨日から練習してたの?というほど、チームメイトのくまけんさん、ミズさんのプレゼン力がすばらしく、無事発表を終えることができました。
そこから遠野にいさんとの相談タイム。チームフムルプは吉田さんにプレゼンで伝えきれない部分も含めてあらためて説明しつつ、フィードバックをもらいます。
その間にくまけんさんがなにやらパソコンをカタカタしていたかとおもうと、おもむろに輪の中に画面を差し出します。
ZUMONAビールについてふれているネット上の記事から、ZUMONAビールの評価に関する言葉を、GoogleのAPI(CLOUD NATURAL LANGUAGE API)を使ってざっと集計表を用意してくれました。
みんな画面に興味津々。これをもとにビールやホップに関する言葉の自然言語解析ができるのでは?そしてそれを即席で提示できてしまうのもまたすごい!
このライブ感、しびれます。
そんな臨場感のある話し合いの結果、VR酒場のアイデアは残しつつ、プロトタイプとしてはビアログアプリを作ろうということに決まりました。
私にとってはじめての遠野の旅でもあったフィールドハックの三日間は、こうして幕を閉じました。
その余韻を楽しむ暇もなく、怒涛の開発フェーズの幕があがります。
「Field Hack TONO 開発〜発表編」は後編にて。近日アップをお楽しみに。