2017年06月01日
本の旅。 その場所だから、はじまる話。
〜モノサスの「読書会」#13〜
図書委員長の村上です。
皆さんには行ったことはなくても思い入れのある場所はありますか?
いつか行ってみたい場所や旅行で訪れて好きになった場所。
物語の舞台になった場所。
「ここではないどこか」への憧れは、人はつきないのかもしれません。
今回はそんな「ある場所」がテーマの読書会です。
新茶の季節。
ゴールデンウィークで帰省した時に買ってかえった、私のふるさと、熊本産の新茶を飲みながらの読書会、スタートです!
発表タイム
40分間の読書タイムを終えたら、ひとり5分間でその本を紹介します。
-
東京から片道七日間 静寂を求めて南極旅行はいかが?
マガジンハウス(著)『BRUTUS (ブルータス) 一世一代の旅、この先の絶景へ』(紹介者:乾 椰湖) -
幻のセルクナム族 南米突端の不思議な精霊たち
アン・チャップマン(著)『ハイン 地の果ての祭典: 南米フエゴ諸島先住民セルクナムの生と死』(紹介者:和田 亜也) -
フランスの不朽の名作から 正しい生き方って何なのか考える
ユゴー(著)『レ・ミゼラブル』(紹介者:村上 伊左夫) -
その土地の土からできる 器の美に魅せられて
萩原 健太郎(著)『民藝の教科書① うつわ』(紹介者:羽賀 敬祐)
東京から片道七日間 静寂を求めて南極旅行はいかが?
『BRUTUS (ブルータス) 一世一代の旅、この先の絶景へ』(紹介者:乾 椰湖)
- 乾
-
3年前のBRUTUS『一世一代の旅、この先の絶景へ』特集を持ってきました。 いわゆる普通の旅行じゃなくて壮大な旅を紹介してます。表紙は南極のペンギンですが、南極は東京から往復で15日間かけて行っても4日半しか滞在できないし、かなりのエネルギーを使うそうです。ペンギンも好きなので、可愛いと思いながら見てました。長い時間をかけてできた氷河の断面の写真もあって、きれいなんです!
- 乾
-
南極以外にも、湖の底から恐竜の骨が見つかったというブラジルの湖やエチオピアとかアフリカとか、それぞれどういうスケジュールや交通ルートで回ったかが書いてあるんですが、私は南極が一番楽しそうだなと思いました。
面白かったのが、南極の売店でイギリス人の女性と出会った話。以前は東京に住んでいて、静寂を求めて南極にやってきたそうなんです。静寂を求めて南極に来るとか、かっこいいなって思って(笑)。
あと、「本と映画で旅する絶景の地」というページでは、本のセリフと舞台になった場所が紹介されています。『きっとうまくいく』というインド映画も載ってて、インド映画ってすごいテンションなんですが、最後のハッピーエンドの舞台になったところが紹介されてたり。こういう映画や本の舞台になったところに行くのも、旅の目的として楽しそうだと思いました。
- 和田
-
雑誌にのっているとこに行ってみたいという思いがあるんですか?
- 乾
-
はい。どちらかというと寒いのが好きなので、南極とか、北欧にある家具やベッドが全部氷でできたホテルや、オーロラとか見に行きたいなと思っています。
- 村上
-
南極に売店があるんですね。南極はやっぱり船で行くんですよね。
- 乾
-
そうなんです、でも病院が無いらしくて。 病院がないので南極をカバーする海外保険を扱う会社も限られているので注意。とも書いてあります(笑)。
- 村上
-
やっぱり船で行くんですよね。
- 乾
-
到着するまで七日間かかってますね。成田からアトランタ経由ブエノスアイレスまで、飛行機で28時間24分。そこからチャーター便で移動して、東京を出発から4日目で初めて船に乗るみたいです。5日目でドレーク海峡を南下して、南極半島へ。
ちなみに、クルーズ船なので、食事はすべて料金に含まれてて、ルームサービス可(笑)。 皆さんも是非、参加してみてはどうでしょうか?
幻のセルクナム族 南米突端の不思議な精霊たち
『ハイン 地の果ての祭典: 南米フエゴ諸島先住民セルクナムの生と死』(紹介者:和田 亜也)
- 和田
-
『ハイン 地の果ての祭典』という本を持ってきました。 南アメリカ最南端、フエゴ島にいたセルクナム族、つい最近絶滅してしまったらしいんですけど、その部族に密着取材をした人が文献や子孫から話を聞いてまとめた本です。
「ハイン」というのは成人男性の通過儀礼のときに行われる祭典で、表紙の奇妙な写真は神聖な儀式の時のハレの姿(精霊に扮している)です。セルクナム族は男性が支配している民族で、儀式では新成人以外の大人達が精霊のまねをします。新成人は小屋に連れて行かれ拷問に耐えて成人と認められるそうですが、実際には小屋で狩りの方法や生きていくのに必要な技術を教えてもらっています。女性は小屋には入れないので、新成人の子どもたちがひどい目にあわないように、精霊たちにごちそうを用意してお供えをします。でも結局は男性が食べるという(笑)。
本では、どんな精霊が出てくるのかが紹介されていて、種類もいっぱいあって写真も結構載ってます。精霊にはそれぞれ性格もあって、男性はそれを練習して演じてたそうです。
いちばん面白いと思ったのは部族の神話で、セルクナム族はもともと女性が男性を支配していたらしく、男性がたくさん働いて女性はあまり働かず精霊を使って男性を脅していた。あるとき男性がそれを知って反乱を起こして権力を握ったという神話で、男性は女性から奪った地位を守るために、女性に同じことをしているんだと。
でも支配するための恐ろしいものではなくて、結構男性も女性もお祭りとして、演じるのを楽しんでるみたいなんですよね。疫病や植民地支配などで除々に部族の人間も減っていくんですけど、その中でも楽しむ場というか。女性たちはそれを見て笑ったり、支配されるというのはわかってても、伝統をつなげていくみたいな要素もあったようです。
結局「ハイン」の全ては解明されてなくて、真相はもうその人達がいないので分からないんですが、こういう奇抜な部族がいたという驚きで夢中になって読みました。
- 羽賀
-
「ハイン」は女性側も楽しんでたんですか?
- 和田
-
はい、女性たちもちょっとお祭りみたいな感じで、結婚相手を見つけたり、普段は毛皮を着て狩猟民族みたいな格好をしてるんですけど、ハインの期間だけは色を塗って変わった恰好したり、楽しんでたようです。
- 村上
-
肌を露出してますけど、このあたりって結構寒いところですよね。
- 和田
-
南極に近い方ですが、毛皮を着れば暖かいから、裸足で服を着てなかったようです。火に当たるときに、素肌のほうが暖かいから何も着てなかったとか。ネットで調べたら、西洋人が服を着せようとして、逆に病気を持ち込んで滅んでいっちゃったと書いてあって、かわいそうだなと思いました。
- 村上
-
この部族は、いつ頃までいたんですか?
- 和田
-
最初の方に出てくるおばあちゃんが最後の子孫で、その人が2006年頃に亡くなって誰もいなくなったそうです。セルクナム族の独特の歌や詩、演劇、成人儀式、神話…。大変だけど楽しかったんだろうなということが伝わってくる本でした。 いなくなってしまって、すごく残念です。
フランスの不朽の名作から 正しい生き方って何なのか考える
『レ・ミゼラブル』(紹介者:村上 伊左夫)
- 村上
-
ビクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』。フランス、パリが舞台の大作です。あらすじを知っている人も多いと思いますが、主人公のジャン・バルジャンは、若い頃にパンを一切れ盗んだだけで牢獄に入れられて、脱獄をしたりして結局19年間も監獄にいたという数奇な運命をたどった人です。
監獄を出た後も、貧しさや囚人だった過去から宿に泊まるのも一苦労で。あるとき、年老いた司教に宿を頼んだときに、親切にしてもらったにも関わらず、彼は燭台を盗んで逃げてしまう。結局捕まるんですが、その司教は「盗んだんじゃない、あげたんだ」といって罪に問わなかったんです。そこで彼は改心して正しく生きることを誓います。
この燭台の話も好きなんですが、他にも好きなエピソードがあって。 主人公は義理の娘みたいな女の子と一緒にパリに引っ越すんですが、その頃パリでは7月革命が起こってて、革命家の青年マリユスとその女の子が恋に落ちるんです。 青年を快く思わないジャン・バルジャンですが、彼が革命の暴動で怪我をしたときに助けるんです。怪我をして意識がないマリユスを背負って、ジャン・バルジャンが地下の下水道の暗く長い水路をずっと歩いて行く。この場面がすごく印象に残ってて、大好きなシーンです。
ジャン・バルジャンは事業で成功して市長にまでなるんですけど、ふとしたことで、囚人だった過去がバレて追放されてしまい、そこからまた放浪して…そんな彼の一生を追っていく壮大な話ですが、「正しい生き方というのが何なのか」ということを教えてくれた印象的な一冊です。
- 乾
-
アン・ハサウェイが出演した映画を見たことあるんですが、本は全部で何巻ですか?
- 村上
-
全 5 巻です。大学生のころに全部読みました。
過去に何度も舞台や映画にもなっていますが、本で読むと、途中に詩のようなものが挟んであったり、映像化されていない部分もかなりあって。映画では描ききれない部分や背景を知れるのも良いなと思います。
- 羽賀
-
途中で挫折しそう…。
- 村上
-
確かに、最初はカタカナの名前が多いので、名前が覚えにくかったです(笑)。でも読んでいくと段々慣れてきて、世界観に入れるんです。
マリユス青年に片思いしている、エポニーヌという娘のエピソードも報われない感じで忘れがたくて…最後はもう、泣けます。 舞台の背景となるフランスのナポレオン後の歴史を知ってると、より楽しめると思いますよ。
その土地の土からできる 器の美に魅せられて
『民藝の教科書① うつわ』(紹介者:羽賀 敬祐)
- 羽賀
-
僕が持ってきたのは『民藝の教科書シリーズ① うつわ』です。最近、僕、料理もろくにできないのに器集めにハマってまして(笑)。
去年、神山ものさす塾で徳島県に住んでいたときに、徳島市内にある「東雲(しののめ)」というお店と出会いまして。今は移転して「遠近(をちこち)」という名前になってますが、東尾さんという素敵なオーナーのお店で、そこで民藝の器の良さを知ったのがきっかけです。
教科書という名のとおり、そもそも民藝って何?から始まって、民藝と民藝じゃないものの違いや、それにまつわる人物の紹介など、これ一冊読んだら民藝の器についてだいたいわかる内容になっています。 あと、全国民窯マップっていう、日本全国の窯元を紹介するページもあります。
- 羽賀
-
僕のお気に入りは、大分の小鹿田焼(おんたやき)と島根県の布志名焼(ふじなやき)です。
小鹿田焼きは大分県の日田市が窯元で、300年以上受け継がれている窯です。 飛び鉋(かんな)を使って、細かく刻んだような跡がばあっと付いてる模様が恰好よくて。大分の土はちょっと固めで色も濃くて、あまり器作りには向いてないんですけど、その固さのおかげで鉋で模様をつけるときに溝が深く刻まれるんです。
布志名焼は島根県松江市の湯町窯で作られていて、スリップウェアのように化粧土を器の表面にさぁっと書いて作る模様がすごくきれいなんです。 地元の素材を活かした釉薬の模様がすごく映えてて。ササアっと作り手が柄を書くんですけど、一つ一つ個性があって、一品物みたいな感じなんですよね。工業製品とは違う温かさがあって、すごく好きなんです。
民藝の器の条件にはいくつかあるんですが、「地方性」という事も含まれています。「地方性」とは、その土地土地で取れる素材だったり、受け継がれてきた伝統を守りながら作っているという意味なんです。
都内でも民藝の良さに触れられる場所はいろいろありますが、オススメは「日本民藝館」。駒場東大前の駅から徒歩数分のところにあるので、ぜひ行ってみてほしいです。
- 村上
-
布志名焼って地の色があんなに黄色なんですか?
- 羽賀
-
これは釉薬の色ですが、黄色っぽい土が取れるようです。スリップウェアという技法自体は18世紀頃にイギリスで発展したものですが、それを民藝運動の指導者が湯町窯の人たちに伝えて、それが受け継がれているんですね。
- 村上
-
あ、小代(しょうだい)焼がある。これうちの地元(熊本)だ。
- 羽賀
-
いいですね、小代焼も気になってるんです。九州は窯元多いですよね。 九州や山陰地方の窯元巡りをしてみたいなと、これを見ながら思ってます。
読書会をおえて
僻地への旅から南米の最南端、フランス、そして日本の地方へ。 広く世界を旅して、最後は日本に戻ってきた読書会となりました。
「場所」をテーマにした読書会で民藝の器の話になるとは予想外でした。
あらためて、世界は広く、さまざまな生き方や文化があるものだと思ったひとときでした。
次回は雨でも川でも海でも、水がテーマの読書会です。
どんな本に出会えるでしょうか。 それではまた!