2017年09月15日
「よくわからないけど、おもしろいはず」
メーカーとメイカー、メイカーと地域をつなぐ場をつくる・後編
~ interview 小林茂さん(IAMAS教授 )~
小林茂さんをゲストに迎えためぐるモノサシ後編です。
前編では会社員時代から IAMAS に籍を置くまでの小林さんのストーリーに始まり、「 Maker Faire Tokyo 」や「 Field Hack 」など、メーカーとメイカーとユーザーを結びつける活動への思いをうかがいました。
後編では複数同時並行でプロジェクトを進める小林さんのスタイル、その活動を通して目指しているものについて語っていただきました。
(聞き手:上原健/インタビュー構成:佐口賢作)
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小林 茂さんプロフィール:
博士(メディアデザイン学・慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)。1993年より電子楽器メーカーに勤務した後、2004年よりIAMAS。Arduino Fioなどのツールキット開発に加えて、オープンソースハードウェアやデジタルファブリケーションを活用し、多様なスキルや視点・経験を持つ人々が協働でイノベーション創出に挑戦するための方法論を探求。著書に『Prototyping Lab 第2版』など。
複数のプロジェクトが同時にすすむと
相乗効果が生まれる
上原
例えば、今日の取材も東京にいらした仕事と仕事の合間にお時間をいただいた形ですが、複数の活動を同時並行で進めていくのは大変ではないですか?個人的にも最近のホットトピックです(笑)
小林さん(以下、敬称略)
1つの活動だけをやっていると途中で必ず停滞する時期があると思うんですよ。参加される方が他のことで忙しくなったり、経営の状況が変わったりとか、メンバーの中で関係が難しくなってしまうとか。それは自分でコントロールできない部分です。
だから、その時々でどのウェイトが一番重たいかはありながらも、複数の活動を必ず同時に走らせるようにしています。そうすることで、一個が止まっても、空いた時間で他のことをやればいいか、と切り替えることができますから。
また、あるところでうまくいったやり方が、他のところで使えることもあります。ここでうまくいったから、同時並行で進めている別の活動に応用してみよう、と。もちろん、1個1個に集中して取り組むのも1つの方法ですが、僕は複数を組み合わせて走らせながら、それぞれの間で相乗効果を出していくようにしています。
活動の上で問題が生じたときも、このやり方を変えたらどうなんだろう? やっている人が別の人になったらどうなるだろう? 別の活動に置き換えて考えてみたらどうだろう、と。複雑に絡み合って手を付けられないときほど、分解してみるようにしていますね。
上原
他のプロジェクトから影響を受けて、別の発想が生まれることも?
小林(以下、敬称略)
それは常にありますね。
「クライアントワークとセルフワーク」という言い方をする人もいますけど、誰かがリードして進めていくものに対して自分が協力するという立場と、自分がメインでやっていくという立場では見え方も違ってくるんですよね。
どっちがいいかではなくて、両方同時にやっていくと視点が変わり、それぞれでいいやり方がみつかることがあります。今、話しながら思い出していたのは、あるアニメーションの監督をやっている方が言っていたことで、刺激を得るために自分で監督をやる仕事、他の監督のもとスタッフとして仕事をすることを交互にやっている、と。立場を変えてみると、新しい問題解決の方法が見えてくることもあります。
それでもすべてをゼロから100までうまくやる方法論はありません。試しながらも、ぶつかりながら、なんとなくゼロからイチのところまではこういうやり方でできるかもしないって手応えをつかめてきたところです。
上原
結果がわからないものを始めることに醍醐味を感じるところもありますか?
小林
すごいおもしろいことにつながる可能性が高いなと思っています。「 Field Hack 」を始めるずっと前にやった取り組みの1つで、「 iBeacon* ハッカソン」というのがありました。短期間に4回、IAMAS のある岐阜県大垣市でやったんですが、僕らは Apple が iOS7 に乗せた位置情報アプリの iBeacon が爆発的に広がるに違いないという勘違いをしまして。iBeacon とつながる機器などの可能性を探るハッカソンを開催したわけです。
*iBeacon:超低消費電力のBluetooth LE(ブルートゥースロウエナジー)を使った低電力、低コストの通信プロトコル。アップルの商標。特別な識別情報を発信するビーコンの電波をiPhoneのアプリがキャッチし、特定の動作を起こすことができる。(事業構想『 iBeaconが街を変える 』参照)
1回目は本当に手弁当でスタートして、たぶん世界初、少なくとも日本初の試みだったんですが、外から見ると「なんだかよくわからないテクノロジーについての取り組みをどこだかわからない場所でやっている」状態です。
誰が参加するのかな? と主催者のこちらも半信半疑だったんですけど、来てくれたのは相当アンテナを高く持っている人たちでした。しかも、地元から参加するって人は1、2割で、中部圏、東京圏は予想していましたけど、遠くはシリコンバレーからも参加者がいた、という。その人は日本にもオフィスがあって、日頃はシリコンバレーで仕事をしていて、ちょうど帰国するタイミングでおもしろそうなハッカソンがあると知って、「岐阜の大垣がどこだかわからないけど行ってみよう」とやってきた。
僕らも驚いたんですけど、場を作ると人は集まってきてくれるところがあって、しかも実行力のある方々なので、そこでネットワークができることによって、「新しいプロジェクトを一緒にやりませんか?」といったつながりができたり、噂を聞きつけて、おもしろいと思った人たちがさらに入ってきてくれたりと、何かが起きるんですよね。
上原
本当にたくさんの試みを行っているんですね。
小林
手当たり次第です(笑)。
新しいチャレンジをしていく人たちが、
よりチャレンジしやすい環境を作っていきたい
上原
そんな小林先生が、これからやっていきたいと考えていることは?
小林
1つには新しいチャレンジをしている人たちの紹介です。
例えば、ソニーやパナソニックといったメーカーの中には、おもしろい活動を始めているメイカーたちがいます。趣味の時間で物を作ったりもするんだけど、完全に趣味というわけじゃなくて、それを本業の方に生かして、今までできなかったようなプロダクトを生み出そうといった発想をされている人たちです。
そういったメーカーの中にいるメイカーの活動を取り上げ、広く紹介していく活動を続けていきます。
また、スタートアップという言い方が適する人たちとそうじゃない人たちがいるんですけど、元々、物を作っているメーカーに属していたわけでないところからプロダクトやサービスを作って、それを世に出していくメイカーもいます。そういった方々の活動も取り上げていきたいですね。
メイカーとメーカーは、どちらも英語表記は「Maker」です。でも、「 Maker ムーブメント」に関わる文脈では、日本語として「メーカー(企業)」「メイカー(個人の作り手)」の2つの表記が可能です。ちょっとややこしい言い方ですが、メーカーとメイカーをあえてかけながら広めていきたいです。
もう1つは、新しいチャレンジをしていく人たちが、よりチャレンジしやすい環境を作ることです。何か新しいチャレンジをするというときに、自分の人生を賭け、借金してスタートするということではなく、もっとミニマムなチャレンジができる方法があるよ、と。それを知ってくれる人が増えれば、もっと気楽にチャレンジできる社会になると思います。
現状、東京ならある意味、なんでもありのところがあって、チャレンジしやすいかもしれません。でも、地方の小さいコミュニティになればなるほど、やりづらいところがあると思うんですよね。
そこで何かが起きたとき、再起不能みたいになってしまうのはおかしいし、チャレンジすることが推奨されるような社会にしていくにはどうしたらいいかと考えています。
それを今の政府が使っている言葉にすると、突然、働き方改革とか、人材流動化とか、地方創生とかになってしまい、急に補助金をもらって一生懸命やりますみたいな話に聞こえてきちゃいます。だから、あえてそういう言葉は使わず、手弁当の小さな仕掛けかもしれませんが、自分たちで動かす活動はできるんじゃないかと考えています。
そのときすごく重要だなと思っているのは、「 Field Hack 」と同じで、関わる人たちがいかに同じ地面の上に立つかです。上下関係があると、自発的なコラボレーションって生まれてこないですから。
「 Field Hack 」の場合には、あの中に誰もクライアントがいないという普通のビジネスではあまりない状態で進めていきます。受発注の関係でなく、みんなでそこに立っている関係ができているからこそ、他の取り組みではないような成果が出ているのかなと思います。
モノサスの印象は、"なんだろう、これは?"から
泥臭いところでおもしろいことが起きている会社に変わりました
上原
最後に小林先生から見たモノサスの印象を聞かせてください。
小林
最初にモノサスの方々にお会いしたときは、Web を中心にお仕事をされているのかなと思ったけど、話を聞くと、神山で畑もやっている、と。なんだろう、これは? というのが、第一印象です。
その後、たまたまタイに出張することがあって、社長の林さんとコンタクトが取れて、タイのオフィスにうかがったりして、ますますどういう会社なんだろう? と疑問が深まりました。
東京のオフィスでのパーティに行くと、やたら食べ物にこだわっていて。受付にすごい力入っていたりするシュッとしたスタートアップのオフィスとはまったく違う、泥臭いところでおもしろいことが起きている会社なんだろうなって印象に変わりました。
実際にこの間、神山にもうかがって、Facebook や Instagram ではわからない現場の雰囲気を感じて、おもしろいな、と。今後の日本の......と言うと陳腐な感じになっちゃうんですけど、大きな変化が起きていくだろう中で、フードハブのような試みが当たり前になっていくかもしれないし、仮にそうならなかったとしても、そこでのチャレンジから得られることもたくさんあるだろうなと思いました。
あと、「 Field Hack 」ってそんなに簡単な取り組みではないですよね。参加者からたくさんのお金をもらっているわけでもなく、いわゆるビジネスとしてがんがんやっているわけではない中で、そこに関わっているモノサスの人たちが「どうやったら一番いいアウトプットにつながるんだろう」ってことを考えてきめ細かく動いてくださっている。そういう動き方ができるっていうのはすごいなと思います。
また、そういうきめ細かさながければ参加している側、主催者で関わっている人たちから見たとき、熱量が漏れちゃうところがあると思うんです。運営している人たちがきめ細やかだからこそ、みんなが集中してテーマに取り組むことができる。それはモノサスが、インターネットの上のことだけではないところを大切にしているから、できるんじゃないかなと思います。
上原から小林先生への手紙
日頃お仕事の際はもちろん、移動時間や、懇親会などでも色々お話をさせていただいているのですが、インタビュアーになって、質問するということを通じて、いつも小林先生にお話をするときは、自分は少しテストをしているんだなと感じました。
テストしているとは、僕自身の考えを共有したり、上手く自分の言葉で表現できているのか。そんなことを確認しながら小林先生に話をしているんだなと思いました。(すいません、勝手なこと言って。)
なぜテストをするのかと考えてみると、小林先生がフィードバックや返答される際に、ご自身の経験や、その背景にある考えをフラットにお話してくださり、僕の考えに対するヒントを散りばめながらお話を返してくださるからだと。
それと同時に、答えは自分自身で選ぶんだよと仰っていただいているような。そこには緊張感もあり、かつ心地の良さもある時間にいつもなります。
いつも合間合間のスケジュールを上手く調整してくださり、本当にありがとうございます!
プロデュース部 上原健