2017年11月30日
Open Marketingのはじめかた
Step.3 力を集める -その2-
みなさん、こんにちは。モノサス代表の林です。
前回からコアカスタマーに集まってもらうための具体的な取り組みとして
Step.3、「力を集める」についてお話ししています。
前回は
- コアカスタマーを特徴づけているものは、購入金額や購入頻度ではなく、商品・サービスを通して、似通った経験をしていることである。
- コアカスタマーに共通する似通った経験を、コア・エクスペリエンスと呼ぶ。
- コア・エクスペリエンスは万人に訪れるものではなく、一部の限られた商品・サービスが「あう」客層のみがたどり着くものである。
ということをお伝えしました。
コア・エクスペリエンスの発見のなかでも特に重要なのは、
非常に限られた客層しか、コア・エクスペリエンスを経て、
コアカスタマーにはなっていなかった点です。
今回はこの点をもう少し深掘りし、
コア・エクスペリエンスの発見によって見えてきた
従来のマーケティングのアプローチが抱える問題点についてお話ししたいと思います。
ファネルモデルが内包する、見えない前提。
多くの企業で使われるマーケティングのモデルのひとつに
ファネルというものがあります。
ファネルとは日本語では「漏斗」のことです。
ファネルの各フェーズの考え方はいろいろとありますが、
自社の商品・サービスの認知、見込み顧客、初回購入顧客、リピート購入顧客、固定顧客などというようにファネルを通っていくうちにだんだんと数が減る変わりに、
顧客と企業の関係性は濃くなっていくということを表しています。
実務上では、
- ターゲット客層に対してどのようにリーチして認知してもらうか
- リーチした層に対してどのように見込み顧客になってもらうか
- 見込み顧客にどのようにして初回購入してもらうか
- 初回購入顧客にどのようにしてリピート購入してもらうか
- リピート顧客をどのようにして固定顧客化してもらうか
というようにそれぞれのフェーズごとに施策を立案していくわけです。
具体的な数字を交えてお話しした方がわかりやすいと思います。
例えば、
とある通販企業が、自らの商品を販売するために、
Webで様々な広告を実施し、サイトに100万件のアクセスを獲得したとします。
その後、以下のようなプロセスでフェーズが進行していきます。
- サイトにアクセスした100万人のうち、1万人がサンプル請求をし、見込み顧客になった。
- 無料サンプルを請求した見込み顧客に、リーフレットを同封したり初回購入キャンペーンを実施し、また、メルマガを送信し続け、最終的にサンプル請求1万人のうち3,000人が初回購入をした。
- 初回購入した顧客に再度別のリーフレットを同封したり、メルマガを送信したりして、1,000人が初回リピート購入をしてくれた。
- 以降、固定顧客になってもらうために継続的にメルマガの配信や購入のたびにリーフレットを同封したり、時には電話をかけたりして常にアプローチし続ける。
といった具合です。
先ほどのファネルにあてはめると以下の図のようになります。
実際には、時系列が複雑に入り組みますし、施策を変えるごとに
各フェーズから各フェーズへの移行率が変化していったりしますので、
上記のように完全に単純化することはできませんが
多かれ少なかれ実務上もこのような考えをもとにマーケティングを実施している
企業は多いのではないでしょうか。
このモデル自体は間違ったものではありませんし、
実際にこのようなフェーズで顧客を区切ると、
数はだんだんと減っていきますし、顧客と企業の関係性は濃くなっていきます。
また、施策を実施した結果を分析し、現状を知るためには有効なモデルです。
しかし、このモデルにはひとつ注意すべき点があります。
それは、企業側が商品・サービスを通して顧客と関わることによって
顧客の行動やその要因となる購買意向を変化させることが
できるという前提に陥りやすい点です。
前回、コア・エクスペリエンスに到達するのは
ごく限られた、自社の商品・サービスに「あう客層」だということについてはお伝えしました。もちろん、多くのマーケッター・経営者が、ある程度まではこの点については
認識されていることと思います。
自社の商品・サービスに適した客層のことは想定しているでしょうし、
そこに向けたプロモーションも行っているのではないでしょうか。
そもそも客層を想定することなしにはマーケティングを行うこと自体
難しい面があります。
しかし、それ以上絞りきれない点については
先ほどご紹介したファネルのアプローチ内の各施策にあるように
段階を追って育てていけばよいと考えているのです。
つまり、ざっくり集めた見込み顧客に対して
適度に情報を与えたり、コミュニケーションをとることで
初回購入顧客に育て、リピート購入顧客に育て、固定顧客に育てていこうと
しているわけです。
少し強い表現をしてしまいますが、
私は、企業からの関わりによって顧客が変化したり育ったりするというのは
企業側の勘違いに等しいと考えています。
情報を渡したり、接客をしたり、実際に商品・サービスを体験してもらったりすることで
顧客の行動に一定の変化を与えることができる部分はありますが、
それは、あくまで表面的な行動の変化にすぎません。
購買を司るのは顧客の潜在的・顕在的価値観ですから、
そう簡単に他人が変化させられるものではないのです。
教師や親、場合によっては会社の上司、先輩のように長期間にわたって
直接対話を繰り返すことによって価値観に影響を与えるというのであれば
わからなくもないですが、企業が商品・サービスを通して
顧客の価値観にまで影響を与えられると考えるのは少々無理があるのではないでしょうか。
(長期に渡ってある地域や客層にコミットし続け、市場自体を切り拓き、顧客の価値観も
含めて影響を与えているような企業はありますが、ここでは触れません)
価値観を変えるなどと大げさなことを意識しながらビジネスをしている人は
ほとんどいないと思いますが、マーケッターや経営者の意識の中には潜在的に、
顧客を変えたいという心理が働いていることは多いですし、
固定顧客化させるという継続的な行動の変化には、
多少なりとも顧客の心理状態、ひいては価値観を変化さようという
意識が前提として存在していることは否定できない部分があります。
わかりやすく整理すると、企業側のロジックとして、
顧客は、商品やサービスについて知識を深め、体験を積み重ねていくことで、
企業・商品・サービスについて好感を持ち、より長いこと関係を保とうと
心理状態を変化させるはずだということが前提としてあるということなのです。
顧客は変化しない。
しかし、コア・エクスペリエンスにたどり着く客層がごく限られているという事実は、
上記の企業側のロジックが非常に危ういことを示しています。
結論からお伝えすると、ファネルモデルに基づいて、連続した施策を実施することで
顧客を徐々に説得し、行動と心理状態を変化させようという方針は、
当初はよくても、継続的にビジネスを発展させることは難しいと考えています。
なぜなら、顧客は商品・サービスの利用によって、行動や心理状態を変化させるのではなく、
自分の価値観にあった、継続的に付き合い続けたい商品・サービスを、
購買・体験のプロセスを通して選別しているだけだからです。
顧客の価値観が変化して商品・サービスにフィットしていくのではなく、
顧客の価値観にフィットする商品・サービスが見つかった時に顧客は満足し、
継続的な購買の意思をもつのです。
顧客にとっては、商品・サービスにあわせて自分の価値観を変えるよりも、
自分の価値観にあった商品・サービスを見つけるほうが心地がよいのは
ある意味当然のことです。
そして、顧客自身が「これは自分の価値観にフィットする商品・サービスだ」と
気づくその瞬間こそがコア・エクスペリエンスとなりえるのです。
この、顧客を変えることができるという企業側の前提と
自分の価値観にあう商品・サービスと出会いたいという顧客とのすれ違いが、
決定的に企業のマーケティング効率を悪くしていく原因になっているのです。
長くなりましたので今月はここまでにしたいと思います。
次回は、見えてきた課題をより鮮明に整理してお伝えしたいと思います。
今月も最後までお読みいただきありがとうございます。