2018年01月10日
2つのものをくれた場所
〜ゴールデン街「あるぱか」〜
ゴールデン街。
今回私がお勧めするお店「あるぱか」は、そこに在る。
いや、お店というより「場所」という方がより正確な気がしている。
「あるぱか」は、私に2つのものをくれた。
1つは、心からゆっくりできる自分の居場所。
もう1つは、とても魅力的な劇団「はぶ談戯」との出会い。
今回はその2つについて話をすることにしよう。
心からゆっくりできる自分の居場所「あるぱか」
あるぱかとの出会い
私と「あるぱか」との出会いは約半年前であり、実はそれほど前ではない。
友人と新宿で飲んで、そのままの流れでふらっと以前から関心があったゴールデン街に来た日にさかのぼる。
別の店に1、2軒入り時間を過ごした後、通りを歩いていると「あるぱか」とちょっと変わった店名の書かれた看板を見かけたのだった。
しかし、慣れないゴールデン街。しかも2階のお店。中が見えないから好みでないお店だったらどうしようかとちょっと躊躇したのを覚えている。
しかし、「あるぱか」というちょっと可愛らしい店名や赤い扉に誘われたのか…。正直よく覚えていないが、階段を上っていき、赤い扉を開いた。
それがあるぱかとの出会いだった。
あるぱかという場所
目の前に広がるのは味のある本棚とカウンター。
そこは他のお店と違って穏やかでどこか懐かしい空間が広がっていた。
店員の方に案内されるがままカウンターに着席すると、その場にいたお客さんも軽く会釈をしてくれた。店員の方はこちらのことについて根掘り葉掘り聞いてくるわけでもなく、友人と二人で話し込んでいるときは放っておいてくれた。
一方、こちらが店員さんに話しかけると気さくに答えてくれ、他のお客さんも話しかけてきてくれたりして、気づけば店内一体がまとまっている感じになった。初めて来た自分達もあるぱかの中に溶け込んでいるようだった。特にみんなで意識して場を合わせるのでもなく、肩の力を抜き、自然体でいることでいつの間にか場になじむことができていた。その心地よさが、今も通っているきっかけになっているのだと思う。
それからというもの、あるぱかには1~2か月に一度不定期で通っている。あるぱかに行くのは何もこの日と決まっているわけではない。ふらっと穏やかな時間を過ごしたくなった時、誰かと話したくなった時に行く。そういう意味では本当に仲の良い友達に「今日、空いてる?」と聞いて飲みに行くのと同じような感覚に近いかもしれない。それが筆者のあるぱかとの付き合い方だ。
見所の多い店内についても説明したい。
初めて「あるぱか」に来た当時は本棚の存在に驚いた覚えがあるが、たまに行くようになった今では「あるぱか」を物語る大事な要素の一つだと感じている。
他にも、気取らないちょっと古びた置物など数々のアイテムがある。
特に、店名の「あるぱか」にちなんで、店のあちらこちらに「あるぱか」のぬいぐるみやイラストがある点については、店主の「あるぱか」愛が読み取れる。
店員の方は日替わりでミュージシャン、舞台俳優から20歳くらいの学生まで様々。とある日に店員の方が「今日は僕の好きなガンダムの挿入曲のクラシック版を流してます」と話していたが、その時どんなBGMが流れるかはその日の店員さんの好みで決めるそうだ。
また、お客さんも同様に若い方からご年配の方まで幅広い。しかし、そこには共通点があると思う。
店員の方もお客さんも個性的で、でも人懐っこく素直な人が多いのだ。
そう、あるぱかに来る人は「お酒を飲みに来る」のではなく、「人に会いに来る」のだと私は思う。それは劇団を主宰する女優で、ファンもいるという店主の穂科さんや、店員さんだったり、あるいはたまたま隣同士でカウンターに並んだ見知らぬお客さんだったり…。
人懐っこい人が多く集まるせいか、あるぱかに行くと必ずといってよいほど他のお客さんと仲良くなる。世代も仕事も価値観も違う人と話すのがまた楽しい。そうやって、自分が普段接しない人の価値観や経験、時にその人の過去を覗き見たりすることもある。
普段の生活の中では、仕事に追われ余裕を持てなかったり、東京という大都会の中で見知らぬ人との関わりを避けていたり、面倒だと思っている自分。自分は人間嫌いなのかとさえ思っていた。
しかし、ここで知らない人と楽しく話すということが、自分が特定の誰かだけではなく、自分の生活圏外の世界の人との関わりを実は求めているのだと気づかせてくれた。
警戒する必要もなく、猜疑心を抱える必要もなく、顔色を伺う必要もなく、ゆったりとした時間の流れる空間で心を開いて人と話すことのできる場所として、いつのまにか自分の居場所になっていた。それが私にとっての「あるぱか」なのだと思う。
魅力的な劇団「はぶ談戯」
昨春「あるぱか」に行ったときのこと。
あるぱかの店主である穂科エミさんが話しかけてきた。
「ねえ、劇とか興味ある?今度演劇があるから良かったら見においでよ」
穂科さんが主宰する劇団「はぶ談戯」の公演があるとのことで、今回の公演は今まで上演してきた短編の中から、選りすぐりの作品を集め、毎月2本ずつ上演していくということだった。
今まで劇というものにはあまり関心が無かったのだが、これも何かの縁ということで観てみることにした。
公演当日。劇場に座り開演を待っていると、テーマソングらしき音楽が流れ出した。リズミカルだが哀愁漂うメロディーにしばらく浸っていたのを覚えている。その後『ツナガルツタエル』という劇が始まった。
それぞれ事情を抱えた男女がとある場所で、それぞれの電話相手と懸命に話していると、別の会話をしているはずなのに徐々に会話が一つに繋がっていくというお話だった。
私はその斬新な発想にまず衝撃を受けた。別に魔法使いが出てくる訳でもない、タイムマシンが出てくる訳でもないのだ。私たちの日常にある他愛もない風景が、ちょっとした発想でこんなに面白い劇になるのだと驚いたのは今でも鮮明に覚えている。
また、劇の最後には役者の方達が舞台に並んで座って自由に話すフリートークというものが始まり、公演前の練習や舞台裏の話などを通して役者の方々の人柄を知ることができた。どの方も個性的だが、それは仕事仲間の枠を越えて本当に仲良く楽しく仕事をしているように見えた。正直、自分もその輪の中に入りたい、そう思わせるような和気あいあいとした空気感が、その劇団にはあるのだ。
その日から「はぶ談戯」の虜となってしまったのは言うまでもない。
今では、公演が始まるときのテーマソングに心躍るまでに。(毎回同じ曲だと思っていたが、厳密には同じジャンル、同じ曲調というだけで、実は毎回違うとのこと)
「はぶ談戯」の劇の内容は、どれも日常的な風景や人間関係、誰しもが抱える過去などで、特殊なテーマではないし、魔法も出てこない。
しかし、穂科さんが作る脚本や演出、劇団の方の演技、音楽…。「はぶ談戯」を取り巻くものそのものが魔法なのかもしれない。
「はぶ談戯」の劇を観に行くときは、魔法のような楽しい時間が待っているのではと毎回わくわくしている。そんな自分を思うと「はぶ談戯」は「あるぱか」という物理的空間をそのまま劇団という形にしたものなのではないかとさえ思う。
良心、幸福感、信頼などのいわゆるこの世で美しいとされていて誰もが求めるそれらのものは、人の弱さ、煩わしさ、不器用さなどの不完全性の上に成り立っているということを改めて感じさせられるのだ。
主宰の穂科さんはテレビ番組「ほんとにあった怖い話」の脚本も書かれており、はぶ談戯の脚本・演出を担当されている。はぶ談戯の構成や演出は、まるでテレビや映画を観ているかのような錯覚に陥る。演劇は今まで幾度か鑑賞したことがあったが、これほど斬新で鮮烈な劇は観たことがなかった。これはとても言葉にし難いので、是非自分の目で観ることを強くお勧めしたい。
田舎から出てきた筆者にとって、せわしなく時間が過ぎていく東京という街。食べ物やお酒など魅力的なお店は数多くあるけれども、モノではない何かを求めていた筆者がたどり着いた先が「あるぱか」だった。様々な過去や価値観が交錯する中でお酒を飲みながら思いを巡らせることも、はぶ談戯の公演を観てただ純粋に心を打たれたり時に自分の人生と重ねたりすることも、今となっては心和む貴重なひとときとなっている。
おまけ
あるぱかのある街 ゴールデン街
せっかくなので、少しだけあるぱかのある街ゴールデン街の風景を。
ゴールデン街内の隣の通りへと続く抜け道
最近は外国人の観光客増えてきたと言われ、実際にそうなのだが、今回は時間が少し早かったので人通りは少なかった。23時前後から混みだすとの話を聞いたことがある。
「ゴールデン街」というと皆さんはどういったイメージを描くだろうか。
きっと、「怖い街」だとか「一見さんはお断りされる」とか、そういうちょっと否定的なイメージを持っているかもしれない。
かく言う筆者も当初はそういう風に思っていた。
しかしゴールデン街に初めて来た日から日は浅いのだが、これだけは言える。
お気に入りのお店が一軒できれば、それは覆される。
あるぱかは初めての方も大歓迎、お客さんも皆気さくな方ばかりなので、ゴールデン街が初めてという方も「あるぱか」をきっかけにして、足を運んでみてはいかがだろうか。
ゴールデン街 あるぱか
東京都新宿区歌舞伎町1-1-9
TEL 03-3200-7159
営業時間
20:00 – 2:00
定休日 なし
はぶ談戯 公式Webサイト 「はぶ うぇぶ」
http://hub-web.jp/
※近く公演がないがすぐにでも観てみたいという方は公式サイト「はぶ うぇぶ」にて過去作のDVD販売を受け付けているようなので要チェック!