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Jul,2021
杉本 恭子
投稿者:杉本 恭子
(ライター)

2021年07月29日

〜デザイナー10年目の探求〜
「自分が喜びを感じることを、仕事に生かすにはどうしたらいいんだろう?」
デザイナー滝田、西村佳哲さんに聞いてもらう(前編)

ものさす探究隊

杉本 恭子
投稿者:杉本 恭子(ライター)

こんにちは。京都在住のライター・杉本です。
ものさすサイトでは「自由と責任 みんなの制度と働き方実験室」など、担当しています。

その「自由と責任」に登場していただいた、デザイナーの滝田さん。インタビューをきっかけに「自身のあり方や興味のあることに、改めて真剣に向き合おう」と思い、真鍋さん(モノサスのCDO)との1on1面談でもその話をしたそうです。

すると真鍋さんは、

「自分のなかだけで考えると、今の滝田に見える範囲で答えを出そうとしてしまう。せっかくだからもっと視野を広げて、自分がどうなりたいかを探求してみたらどう?」

と、西村佳哲さんを紹介してくれました。

西村さんは、空間、プロダクト、Webや紙など、さまざまな分野のデザインの仕事をしてきた人。加えて、インタビューをして記事や本を書き、さまざまなワークショップを主宰し、近年は徳島・神山町でのまちづくりにも携わっています。

世にある肩書きのひとつに収まりきらないあり方に触れたら、滝田さんのヒントになるかも?と、「滝田さん、西村さんに話を聞いてもらう」の会を開きました。


ところで、西村さんは今「何の仕事」をしているんですか?

滝田:西村さんの本やインタビューを読めば読むほど、お仕事の内容が多岐にわたっていることに驚きました。今、ご本人として「この仕事をしています」と感じているのは何ですか?


にしむら・よしあき
1964年東京生まれ。リビングワールド代表。プランニング・ディレクター。『​自分の仕事をつくる』著者。つくる・書く・教える、大きく3つの領域で働く。2014年より徳島県神山町に軸足を移して、多拠点生活をスタート。2016年4月からは、一般社団法人「神山つなぐ公社」設立メンバーとして、「まち」に関わる。​最新刊は『一緒に冒険をする』(弘文堂・2018)。

西村:自分でも「何やっているんだっけ?」とよくわかんなくなるんですよね(笑)。えーと、僕のなかにはいくつかあって。自分がもっている特性というか……。僕の場合は、ほうっておいてもやっていることは、ずっとやっているなと思うんですよ。小さな頃から。

ありありと覚えているんですけど、高校3年生くらいの休み時間に教室の後ろの黒板につかつかつかって行って、チョークで「西村企画」って書いたんですよ。「企画」って言葉もよくわかっていなかったんだけど、なんかそんな感じなんですよね。「何かを考えたり思いついたりして、それを周りにいる人たちに提案する」というのは、僕の性分なんでしょうね。

滝田:何かしようと思ったじゃなくて「西村企画」とただ書いた?

西村:書いた(笑)。

杉本:「西村」は漢字、それともカタカナで「ニシムラ企画」ですか?

西村:正確に言うとね、「ニシム」って呼ばれていたので、「ニシム企画」ってカタカナで書いたんですよ。屋号っぽい。なんかそういう感じなんだなぁ、みたいな。

杉本:何かを思いついて誰かに提案するとき、「ああ、しょうがないな。思いついちゃったよ」なのか、「これは絶対いい!」とワクワクして伝えるのか、どんな感じなんですか?

西村:なんだろうなぁ、アイデアを思いつくとか、「こういうことをしてみたらどうか」ということは、自分にとってはけっこう自然に起こることなので。やらないわけにはいかない、伝えないわけにはいかないみたいな感じです。まあ、でもワクワクもあるかな。

杉本:その瞬間って「よしきた!」とテンションが上がるのか、それとも「うん、出てきたね」と淡々としているのか、どっちが近いですか。

西村:自分にとっては、アイデアみたいなものって「ぽん!」と生まれて「ユウレカ!」みたいなのではなくて。もうちょっと淡々としたものですね。もっと自然にぽろんと出てきて、「これは本当に合っているのかなあ」といくつかの角度から検証する感じかな。


「子ども時代を過ごした時間」に手がかりがあるのかも?

西村:僕の場合、持ち前のもの、自然に発動してしまうものって、過去の自分を振り返ると散見できるんです。よかったら、滝田さんはどうか教えてください。

滝田: 実は私、2歳から持病がありまして、子どもの頃に夢中になって何かにのめりこんだ記憶がほぼないんです。中学生のときは一番症状が重く、寝たきりの時期もあったので、学校で授業を受けたり友達と過ごしたりしたこともあまりなくて。自分に合う治療法が見つかり、ようやく日常生活に戻れたのは高校に入ってからなんです。

西村:そんなに長かったんだ。

滝田:はい。だからずっと家族とだけ過ごしてきて、高校に入って初めてたくさんの人たちとのコミュニケーションを経験しました。勉強もスポーツも遅れているし、趣味や交友関係も圧倒的に少ないという劣等感も手伝って、みんなと自分が全然違うものに見えてしまって。何をどうすれば、普通の生き方をする「みんな」という人たちに近づけるのかわからなくて、コミュニケーションに対する苦手意識が高くなった時期があったんですね。

その頃は毎日のように、放課後に書店でコミュニケーションに関する心理学系の本を立ち読みしていました。振り返ると、コミュニケーションが上手くなれたかどうかよりも、そういう本を読んでいる時間がすごく楽しかったなと思うんです。

西村:楽しかった。

滝田:はい。後天的にコミュニケーションを学んでいくことを本当に面白く感じて、その目線で人を見ることも楽しくなったという経験だったんだと思います。

西村:本屋さんで立ち読みしていたことが仕事にもつながっているんですね。

滝田:ある程度はそうですね。デザイナーの仕事で、一番面白く感じたのはUI/UXに関するものでした。「相手の心理プロセスを理解してコミュニケーションをとる」という、自分自身のなかにある興味とつながっていったのだと思います。


お互いに心地よい環境をつくることに関心がある

滝田:たとえば、キャンペーンバナーを制作するとき、「なぜ、クリックしたけれど登録に至らなかったのか」「他のバナーと並ぶとどう見えるか?」を考えてデザインすると、実績が数字になって返ってきます。その数字を読み解きながら次のバナーを準備するという繰り返しが、見えないお客さんとのコミュニケーションに思えるんです。

相手とのコミュニケーションがうまくいったと思う瞬間がすごくうれしいので、仕事でもプライベートでも「こうすればうまくいくんじゃないか」と考えては小さい実験をするのが好きだったりします。

西村:なんかこう、人の心理プロセスというか、心の動き方に関心があるんですね。

滝田:そうだと思います。できればお互いに心地よい環境をつくれるように、自分が相手のことを理解していくことに関心があると思っています。

西村:そのことを「人を操作することに関心がある」と言われると、どんな違和感がありますか?

滝田:やっぱり、デザインをはじめた頃は、「どうコントロールするか」という考えが大きかったです。あくまで冗談ではありますけども、会社の人に「認知心理学とかを勉強している」と話すときは「世界の全てを自分の思い通りにしたいから学んでいるんだ」と話すこともありました。

ここ2、3年は、そういう気持ちではなくなってきて。お互いが心地よいと感じる関係性を築くと、いろんなことがうまくいくと思うようになってきています。


一人ひとりを理解して、その人に合う接し方をしたい

西村:なるほど。一緒にいる相手との関係性に無理がなくなるというか?

滝田:言いやすくなるとか、雑談が多くなるとか。私は雑談のなかに、本当にたくさんヒントが落ちているなと思っていて。雑談から得られるヒントを糧に生きているので、会社には雑談しにくるくらいの気持ちです。

西村:雑談!いいですね(笑)。それはスタッフとですか? クライアントとの間でもなのかな。

滝田:主にスタッフですね。クライアントとのメールのやりとりでも、「!」をつけてちょっとテンションを上げてみることがあるんです。ふだんから思っていても、わざわざテキストでは書かなかったことを、テンションで書いてしまう部分はあったりするので。すると「あのときのこれがすごく助かりました」などと、言われることがたまにあります。

西村:なるほどね。以前に「世の中をコントロールする」と言っていたのは、ただの冗談でもなくて、ゲーム的な面白さみたいなものもあったのかな。

滝田:コントロール……。ちょっと待ってくださいね、あの頃の気持ちを思い出してみます。単なる言葉の違いかもしれませんが、「コントロール」というよりは、誘導やナビゲートに近いことはしたいと思っていました。バナーのときなどは特に、「こっちの方向に気持ちよく行くためには」みたいなことを考えていました。

西村:そっちの方向に行ってもらうと相互利益がある、と。

滝田:そうですね。でも今は、多くの人を対象にすることよりも、個人への理解度を深めてその人に合う接し方をしていきたいという気持ちに変わりました。

西村:ちゃんと接したいということですかね。

滝田:ちゃんと理解してちゃんと接したいですね。私の場合は、後天的にコミュニケーションを学んだからだと思うんですけど、相手を理解するときのプロセスが自分のなかにちゃんとあったりします。それを踏まえたうえで、個人をもっと深く理解したいと思うんです。


“魔法使いの見習い”から“魔法使い”へと成長するとき

西村:なんと言うか、子どもが大人になっていく過程を聞かせてもらっている感じがします。みんなはもっと、言語がない時代に体験的にコミュニケーションを獲得していくけれど、滝田さんは高校生で言語環境が整った後にそういう機会が来たわけですよね。だから、不思議な辿り直し方をされているんだと思います。

滝田:ああ、「辿り直し方」というと、ちょっとしっくりくるかもしれません。

西村:デザイナーになった頃のお話を聞いていると、なんか“魔法使いの見習い”が楽しくて、魔法を使いたがるみたいな。それは楽しい時代ではあったと思うんです。

西村:社会心理学の本『影響力の武器』(ロバート・B・チャルディーニ、誠信書房)や、認知心理学者の下條信輔さんが書いた『サブリミナル・マインド 潜在的人間観のゆくえ』(中公文庫)は読みましたか? 「こういうプロセスをたどると、本人が自分で判断したと思い込むよ」っていうからくりが明かされていて、「私たちの自由意志っていったいどこにあるんだ?」ってけっこうつらい感じになるんですけど。

でも、こういう本を参考に、人の意識下に働きかけるようなデザイン実装をするデザイナーやプランナーもたくさんいると思います。あるいは、ナチスのプロパガンダを担ったヨーゼフ・ゲッペルスに学ぼうとする人も、たぶん政治家の周辺にいっぱいいて。明確な目的のもとに、意図をもってやっている限りにおいては「何を信じるか」という話になるけれど、単にその“魔法”を面白がっている人もいるだろうと思います。

滝田:目的よりも、手段の方が面白くなっちゃうということですよね。

西村:それって「教わった魔法をちょっと振り回すのが楽しい」みたいな、子どもっぽい時代で。その先では、手法そのものではなく「自分は人とどういう風に関わるか」「どんな関係をつくれるか」「どんな内実が得られるのか」ということに、関心が動いていくのが人間的な成長かなと思うので。そういうお話を聞かせてもらったように感じた次第です。

滝田:そうですね。少なくとも成長は、しているかな……。そうかもしれないです。

子どもの頃から「ほうっておいてもずっとやっていること」ってなんだろう? と、自分のことも振り返りながらおふたりの話を聞いていました。やっぱり、私は気がつくとノートになにか字を書いているのかもしれないな……。

前編では、滝田さんがデザインの仕事を通して成長して、関心のありかが少しずつ動いていったプロセスを聞かせていただきました。後編では、西村さんの胸を借りながら、滝田さんが「今感じていること」を言葉にしていく“冒険”がはじまります(つづく)。

この投稿を書いた人

杉本 恭子

杉本 恭子(すぎもと きょうこ)ライター

フリーランスのライター。2016年秋より「雛形」にて、神山に移り住んだ女性たちにインタビューをする「かみやまの娘たち」を連載中。

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