2023年05月01日
NPO法人の運営をサポートする、株式会社ソノリテ・江崎礼子さんに聞く。
「キン担ラボ・本橋とのちょうどいい関係」
2023年4月、株式会社ソノリテは支援者名簿管理プラットフォーム「ぼきんとん(bokintone)」をリリースしました。kintoneのプラグイン開発を担当したのは、モノサス・キン担ラボの本橋大輔。今回は、徳島・神山町にて、ソノリテ代表取締役・江崎礼子さんにインタビュー。本橋との出会いから現在までのおつきあい、ソノリテの事業内容と今回開発した「ぼきんとん」とkintoneの関わりについてお話していただきました。
江崎礼子さん(えさき・れいこ)
株式会社ソノリテ 代表取締役。NPOや社会貢献事業に対するコンサルティング、オンライン募金システム「BOKINChan」、バックオフィス業務代行などのサービス提供などを行う。2012年、神山にサテライトオフィスを設立。
*江崎さんの「崎」の正式表記は「たつさき」
旅の途中に「これできない?」と相談して
杉本:おふたりは、いつから一緒に仕事をするようになったんですか?
江崎:大ちゃん(本橋)と初めて話したのは、2014年頃だったと思います。当時、NPO法人グリーンバレーがトヨタ財団から取得したアート関連の助成金で、神山、鳥取・鹿野、岡山・倉敷の3拠点連携事業をやっていて。大南(信也)さんが、鹿野でのワークショップで講演するから、みんなで応援に行くことになったんです。その道中で、ソノリテの事業について「こういうことできないかな?」って相談したら、大ちゃんが「できるでしょう」と。「そうだよね!じゃあ、つくろうか」みたいな流れだったと思います。
本橋:ちょうど僕がkintoneを扱いはじめた頃でした。徳島で開催されたハッカソンのイベントにいったら、開発環境のひとつにサイボウズのkintoneが出ていて。「APIをこんなふうに叩いたら、こんな使い方ができますよ」と紹介していたんです。「ああ、こんなことができるんだ。自分がやりたいことに合っているな」と使い出しました。
杉本:本橋さんと「一緒にやれそうだな」と思ったポイントは?
江崎:私は発注側としていろんなSEさんに仕事をお願いしてきました。「募金を集めるためにこんな仕組みが必要なんだよね」と伝えたときに、やりたいことを汲み取ってくれるかどうかが大事なポイントなんです。大ちゃんは、わりとすぐに感じてもらえたなと思います。
本橋:やりたいことがはっきりしていれば、筋道はいくらでもつけられるんです。逆に言うと、やりたいことがはっきりしないと答えようがないんですけど。江崎さんの場合は、すでに動いている『BOKINChan』というオンライン募金システムがあって、それをどうしたいかがすごくハッキリしていたんですよね。
募金システムならではの課題を解決したい
杉本:そのとき、江崎さんはどんな話をされたんですか?
江崎:一般的な販売システムは販売者と購入者は一対一の関係です。ところが、非営利法人の募金システムでは、ひとりの人が寄付者にもボランティアにもなるし、会員になることもある。人を軸に管理できるシステムにしたいという話をしたのだと思います。
杉本:「人を軸に管理する」というイメージがうまくできないのですが。
本橋:たとえば、毎年DMを送信する場合は、複数回寄付してくれた人に対して何通も送るのではなく1通だけ送るとか、5年くらいご寄付がなかったらご挨拶のメールを送るとかですね。お金を軸にする管理と人を軸にする管理をそれぞれにするということです。
江崎:BOKINChanはあくまで寄付を受け取るシステム。寄付の際に得られる寄付者の氏名やメールアドレス、日付や金額などのデータは、本来各団体のデータベース(以下、DB)に保存・管理すべきものです。寄付をいただいたら領収書を出さないといけないし、公益財団法人や認定NPOであれば寄付控除の証明書の発行が必要なので、エクセル管理では無理なんですよね。団体の規模やステージに合うDBが必要だし、データを運用するノウハウも必要になります。
そこで今回、これまでBOKINChanのプラグイン制作などをお願いしてきた大ちゃんに、オンライン募金システムの先に必要な支援者名簿管理を備えたプラットフォーム「ぼきんとん」を一緒につくってもらったんです。さらに、人手が足りなくて管理・運用ができない場合は、ソノリテの神山オフィスで事務代行サービスを提供できるというわけです。
データベースを生き生きとさせるために
杉本:なるほどです。非営利団体にとって寄付あるいは募金をしてもらうのは、活動を支援してもらうこと。その後の関係性も重要になりますよね。お金を集めるシステムBOKINChanに加えて、寄付者との関係を継続するためのぼきんとん、運用サポートとしての事務代行サービスと、ソノリテが非営利団体を応援する仕組みが揃ったイメージですね。
江崎:もともとBOKINChanをつくった経緯に遡ると、20年くらい前はNPOに対する理解や信頼がなくて、使える決済システムがなかったんですね。そこで、「NPOも使える募金システムをつくりたいね」と、つくっちゃったのがBOKINChanでした。当時に比べて今は、クラウドファンディングやふるさと納税が広がり、寄付がかなり一般化されました。一方で、DBで支援者管理をする必要性をまだNPOの人たちはほとんど理解していなくて。そこは圧倒的に弱いと私は思っています。
寄付者のデータって、住所やメールアドレスなどが刻々と変わるんですね。本来、データをもらう目的は、データをちゃんと生かしていくことなんです。データを生き生きとさせておくにはDBの力とちょっとしたノウハウが必要なのですが、そこはあまり理解されていないんじゃないかと思います。
本橋:僕からすれば、名簿を生かすメンテナンスってどうすればいいのかわからない。たとえば、年一回メールを送ってアドレスが生きているかどうかを確認するとか、いろんなメンテナンスがあって生きたデータになるというのは、ノウハウの塊だと思うんですよね。ソノリテさんとの仕事を通じて初めて知るようなことがたくさんあります。
杉本:非営利団体とその応援をしてくれる寄付者とのコミュニケーションを途切れさせないために、データを耕していくノウハウを伝えるところまでを、ソノリテはやろうとしているんですね。
江崎:たぶん、マーケティングの世界では顧客管理なんて、あたりまえにやっていることだと思うんですね。ホテルなどでは、常にデータの最新化をされていると思いますが、寄付者に対してそういう感覚を持つ非営利団体の経営者は少ないと思いますね。せっかく集めたデータを生き生きとさせて、上手く使って活動を大きくしてほしいと思っているんです。
「これできないかな?」を全力で打ち返す本橋
杉本:林さん(モノサス代表)が「江崎さんほど本橋をうまく使えるクライアントはいない」と言っていました(笑)。いつもどんな感じでお仕事をされているんですか?
江崎:私は既成概念に囚われないというか。ユーザーになる非営利団体や寄付者にとって必要だと思うものを「こんなのできないかな?」って言うと、大ちゃんが考えてくれるという感じですかね。
杉本:初めて一緒にお仕事したときとずっと同じパターンなんですね。
本橋:たぶん江崎さんは辛抱強いんですよ。「こういうことをやりたいんだけど」と大まかなリクエストをもらうと、僕は絞り込んだ回答をいくつか返すことが多いんですね。システム設計では、A〜Cまで3案を出したら、「Aのここをこうしたい」と返事をもらって、今度はAを深掘りして3〜4案を打ち返すというやりとりを繰り返します。江崎さんは一歩もブレずに何回でも打ち返してくれるので、結果的にやりたいことが明確なかたちになるんですよ。
江崎:辛抱強いって言われたのは初めてなんだけど(笑)。がんこというか、やりたいことはあきらめないよね。
本橋:課題解決のための筋道について、幅広い視点を提供するのが僕の第一の仕事です。なので初期段階では、"枝刈り"といって「こっちの方向には行かない」を明らかにしていくためにかなり幅の広い返し方をするんですね。Webシステムの相談をされてもその内容を見て「このやり方ならWebのシステムがなくてもできますよ」「別のサービスを使うやり方もありますよ」と返すこともあります。相手によっては「kintoneプラグイン作りたいって言っているのに」と僕の回答がブレているように思われて、ついて来れなくなるかもしれません。そこは、僕がもっと伝え方を工夫して、理解してもらえるようにしないといけないと反省しているところです。
江崎:何を言っても何か考えてくれるだろうと、大ちゃんのことを信頼しているので。
本橋:これ、システム開発ではなくてモノづくりの方の仕事なんですが、幅の広さという点でいい例なのでちょっと話していいですか?
以前、ソノリテがイベントにブースを出すときに「2mくらいの大きなロゴをつくりたい」と相談されたことがありました。そこで、「アルミのバルーンでつくるのはどうですか?」と提案したんです。バルーンは軽くて現地で膨らませてつくれるし、後始末も楽ですから。そこで、スタッフさんとソノリテオフィスの近くにある百円ショップで材料を調達して試作してみて、「このやり方でつくるのは大変ですね」となって。さらに、発泡スチロールを切り貼りするやり方と、レーザーカッターで切った木を現地で組み立てるやり方を試して。結果的に、発泡スチロールが採用されました。
プロジェクトの実現可能性を、調査やテストによって事前に確認することをフィジビリティスタディ(feasibility study)といいます。このときはバルーンと発泡スチロールを試しました。これがシステム開発になると、ブラウザ上で解決するかサーバー側で処理するか、あるいはスマホから音声入力させたり物理的なボタンで呼び出させたりなどの選択肢があります。便利にするためなら手段を選ばない世界なので、過去には固定電話と連携するシステムも作りました。ソノリテのみなさんはこういった枝刈りのプロセスに辛抱強くつきあってくれるんです。
江崎:あのロゴは、水性の絵の具できれいに塗って仕上げましたよ。やるなら中途半端はイヤなんですね。大ちゃんは計算をして「これならできる」というロジックをちゃんと考えてくれる。本当に感謝しています。
kintoneプラグイン開発の可能性を広げたい
江崎:ここ数年は、「ぼきんとん」をつくっていくなかで、いろんなことをお願いしていて。それこそ忍耐強く対応してくれたと思っています。大変じゃなかった?
本橋:一歩一歩確実に前に進んでいく仕事をさせていただけましたので、やりがいが大きくて大変さはそれほど感じませんでした。ソノリテさんとの仕事の取り組み方は、僕が理想的だと思うkintone開発のスタイルと方向性が一致しているんです。僕がkintoneを選んだ理由は、ひとりのプログラマーの力を最大限に活用できるからで、そのためにはソノリテさんのようなチームのあり方がとても理想的です。
kintoneをベースにするとどうしてもお客さん側にkintoneの使い方に習熟してもらうことになります。ソノリテさんは内部にkintoneのチームがあり、高度な使い方をできる人が育っている状態です。お客様とkintoneをつなぐところをソノリテさんにお任せできると、僕ら開発者はkintoneの裏側に隠れた自動化の部分だけに集中して開発できるんです。
杉本:これから、一緒にやってみたいことはありますか?
江崎:「ぼきんとん」は、BOKINChanとkintoneを自動連携するプラグインを開発して、支援者を管理するソリューションパッケージをつくりました。「ぼきんとん」はBOKINChanが入っていないと手続きできないので何百社も使わないけれど、プラグインだけを単体売りできるんじゃないかと思うんだよね。
本橋:そうなんですよね。BOKINChanは募金や寄付というニッチな仕組みですが、一段階抽象化するとソノリテさんと同じように組織運営している企業は他にもあるので、分野を広げれば広げるほど同じニッチに該当するところが必ずあるはずだと思います。
僕の方で考えていることといえば、今はkintoneプラグインをつくるのってけっこうややこしくて大変なんです。多分大きな会社さんでは同じことをやっていると思うんですが、これまでプラグインをつくってきたなかで共通のライブラリを開発していて、このライブラリは設定ファイルを書くくらいのノリでプラグインの開発に着手できます。このライブラリを、kintoneのプラグイン開発を進めたいチームに提供できないかなと考えています。
今はプラグイン開発というと受託開発で仕様と予算を決めて半年ぐらいでつくるみたいなやり方か、自社開発するかの両極端になっていると思います。ところが、プラグイン開発の作業自体を軽量化させれば一人のプログラマが複数のプロジェクトに並列で関わりながらそれぞれで一緒にシステムを作っていくという中間を狙えます。キン担ラボではこのスタイルの開発をうまくPRしたいと思っています。
江崎:可能性はあるよね。「ぼきんとん」はBOKINChanとkintoneですが、周辺に付随する機能がたくさんあるので、たとえば助成金管理アプリもいけると思っています。
杉本:これからもいろんなかたちでご一緒できるといいなと思います。ありがとうございました。