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Feb,2024
平川 友紀
投稿者:平川 友紀
(ライター)

2024年02月21日

「アクセシビリティの向上」というミッションを達成する。第11回Webグランプリに入賞した、マネックスグループ採用サイトリニューアルを振り返る

Webマスターがゆく

平川 友紀
投稿者:平川 友紀(ライター)

マネックス証券とモノサスは、ランディングページや特設サイトの制作、コーディング業務など、長年に渡り、さまざまな仕事をしてきました。

2023年6月にリニューアルしたマネックスグループ株式会社の採用サイトは、誰もが支障なく利用できるよう「アクセシビリティの向上」をミッションに掲げて制作を開始。モノサス制作チームとマネックスグループ人事部、そしてマネックス証券マーケティング部から集まったプロジェクトメンバーが1年近くじっくり時間をかけてつくりあげました。一人ひとりの思いが込められたサイトは、第11回Webグランプリのコーポレートサイト部門で、みごと優秀賞を受賞。

洗練された見やすいデザインとアクセシビリティへのこだわり、優秀賞受賞までの道のりを、座談会形式で振り返っていただきました。

座談会参加者

甲元賢治さん(マネックス証券株式会社 マーケティング部 シニアマネージャー・コンテンツ・マネジメントグループ長)
マネックス証券のマーケティング部で制作に関する業務を統括。証券にまつわる商品を、サイトの中でどう告知して広めていくかを考えるのが主な仕事

山下みどりさん(マネックスグループ株式会社 人事部 マネジャー)
マネックスグループの人事を担当。自身が思い描いていたイメージを形にするべく、サイト制作にも積極的に関わり、インタビューや原稿執筆も担当した

伊藤洋介(株式会社モノサス ディレクター・コーダー)
モノサスのコーディングファクトリー部の部長を退いたあと、ものさす塾の立ち上げなどを担当。マネックス証券との仕事を長年担当し、その仕事ぶりから厚い信頼を勝ち得ている

濱端誠( デザイナー)
和歌山県出身の元バンドマン。マネックス証券とは以前にも仕事をした実績があり、今回も白羽の矢が立った

撮影:袴田和彦


採用サイトでアクセシビリティの向上に挑戦した理由


マネックスグループ・山下みどりさん

- 今回、マネックスグループの採用サイトのリニューアルをモノサスに依頼することになった経緯を教えていただけますか。

山下さん(以下、山下) そもそものきっかけは、人事部が採用サイトをリニューアルしたいと考え始めたことです。以前の採用サイトをつくったときは、抽象的ながら「こうしたい」という思いがあったものの、それをうまく形にすることができませんでした。次にお願いするなら、トレンドも加味しながらこちらのニーズを引き出し、やりたいことを形にしていただける制作会社がいいなと思い、マーケティング部の甲元に相談すると、モノサスの名前が上がりました。

甲元さん(以下、甲元) 弊社とモノサスは、2015年からお付き合いがありました。私が入社したのは2019年ですが、一緒に仕事をするようになった制作会社の中でも、とりわけ伊藤さんの仕事がすばらしかったんですね。ツーカーで話が通じるというか、何をやっても「この人、わかってはるわ」という感じがある。だからその後、伊藤さんに仕事を依頼することがどんどん増えていきました。

もともと伊藤さんとは「サイトのアクセシビリティを高めていきたいよね」という話をよくしていました。ただ、証券サイトはページ数が膨大で、テンプレートも固まっているので、いきなりアクセシビリティのレベルを上げていくのは現実的には難しいところがありました。そんなときに、山下から採用サイトのリニューアルの相談を受けたんですね。今後、アクセシビリティを追求していくための第一歩としてちょうどよい規模感のサイトだったこともあり、担当させてほしいと伝えました。

すぐに伊藤さんにも相談したところ「ぜひ一緒にやりたい」と言ってくれました。制作会社のほうから「やりたい」と言ってもらえることって、実はほとんどないんです。だから、仕事を頼む立場として、そう言ってもらえるのはとても嬉しかった。このプロジェクトは、最初からみんなやる気があって、すごく勢いがありましたね。


「ありのままの思いを形に」を軸にコンセプトをつくる提案


マネックス証券・甲元賢治さん

- 人事部は採用サイトを刷新したい、マーケティング部は今後、企業の責任をまっとうする上でアクセシビリティのレベルを高めたい、それぞれにニーズがある中で、どのようなサイトにしていこうという話になったのでしょうか。

甲元 アクセシビリティを向上させるという今回のミッションを前提にすると、ソースの内部までこだわる必要があるため、パララックスサイトや動画表現を活用したもの、あるいはJavaScriptで変わった動きをさせるものは、むしろ足かせになると考えました。逆算的に、サイトの構造はプレーンなものがいいという共通認識は、最初からみんなの中にあったと思います。

伊藤 僕は最初の頃は、サイトの軸になるコンセプトについてかなり悩んでいました。でも、甲元さんと山下さんと3人でブレストを重ねていくうちに、お二人からサイトに対する思いをたくさん伝えてもらえたんですね。これは僕がコンセプトについてあーだこーだと言わなくてもいい、マネックスさんのありのままの思いを「こういうことですよね」と整理整頓して形にすることが僕の役目だと思いました。ただし、1ヶ所だけこだわらせてもらったのは、トップページのメインビジュアルのコピーです。あれだけは僕が書かせてもらいました。


シンプルながらかっこよく、目を引くトップページと伊藤がこだわったメインコピー「すべての人のお金の未来を、ソウゾウする人へ。」

甲元 当時は、旧採用サイトの文言がどれだけ使えるか、どこを新しくしないといけないかを検討しきれずにいたんですけれども、伊藤さんがうまく整理して提案してくれました。メインコピーもそうですけど、本来は我々が決めなくてはいけないことも、ちゃんと思いを汲み取ってピンとくるものを提案してくれる。だからこちらもすごく楽だし、正直、頼りまくっていましたよね。

山下 デザインについては、数年間は使うことになるので個性的すぎるのはダメだし、尖ったコンセプトは入れられない。でも見た目は今風のおしゃれな感じにしてほしいとリクエストしていました。すごく難しいことを言っていますね(笑)。弊社は服装もカジュアルだし、オフィスの雰囲気もラフなので、そこは他の証券会社との差別化ができるのではないかと思っていました。それを構成でもデザインでもうまく表現していただきました。

思い返してみると、私は以前、採用サイトをつくったときの反省点があって、こうはしたくない、ああはしたくないと、マイナスを補完するようなニーズの出し方をしていました。けれども、伊藤さんと濱端さんがそれをポジティブに変換して、意思が感じられるサイトに仕上げてくださった。提案していただいたものに対して違和感がなく、大きな直しを入れることもなかったのは、やはりつくっていただいたものが私たちの思っていたイメージとぴったり合っていたからだと思います。


デザイナー濱端誠(左)

濱端 最初にデザイン案を提出したときに、甲元さんから「このデザイン方針だと写真やイラストの質次第になってしまう。今使えるものだと70点か80点ぐらいまでしか到達できないかも」と言われたんですね。それを「90点や100点に近づけるために」ということで、カメラマンやイラストレーターを入れていただいて、より良くなっていったところがありました。

伊藤 濱端さんは最初、デザイン案をふたつ出してくれましたよね。もうひとつの案は小さな写真を並べて1枚絵にしたもの。僕はそのときは、そちらのほうが賑やかな感じがしていいと思いました。でも濱端さんが「僕はこっちがいいと思います」と断言したのが、今のデザインなんです。会社の雰囲気を伝えていくことを考えたときに、実際に働いている方の写真が1枚1枚しっかり見える今のデザインのほうが、圧倒的に正解だったなと思います。

甲元 最初にコラージュ的なデザインを提案していただいたのは、写真の質を鑑みてのことだったと思います。実は写真やイラストは、予算やスケジュールの関係であまりこだわれないと諦めていたんですね。でも、たまたま別の案件でカメラマンに来ていただけるタイミングで採用サイトの写真も一緒に撮ってもらえることになったり、別件でお願いしていたイラストレーターの方が、たまたまスケジュールがはまってお願いできることになったり。そういうラッキーも重なって、イラストや写真もクオリティの高いものを用意し、濱端さんのデザインを最大限に活かすことができました。


全員が驚いた!Webグランプリ「コーポレートサイト部門優秀賞」


モノサス伊藤は、オンラインで参加

- 今回のミッションだったというアクセシビリティの観点ではどんなところにこだわったのでしょうか。

濱端 デザイン面では、文字と背景のコントラスト比や色覚異常のある方向けの色構成などに、特に気をつけました。最後にアクセシビリティについて専門家の方にチェックしてもらったときには、いろいろな指摘を受けましたね。例えば、トップページの動画はスクロールする仕様になっていますが、動画が動いていると、注意力が散漫になる障がいをおもちの方がいるそうなんです。*そこで、右下に「動画を停止」というボタンをつけました。アクセシビリティについては、まだまだわかっていなかった部分もたくさんあり、今回の仕事を通じてすごく勉強させてもらいましたね。
*たとえば、注意欠陥障害をもつ人は、動くコンテンツに気を取られ、Webページの他の部分に集中することが困難になる

伊藤 こだわりを挙げるとキリがないんですけど、特に頑張ったのは、目の見えない方が音声だけで情報を拾えるよう、実際に目を閉じて操作してみたことですね。例えば「MONEX」を「エムオーエヌイーエックス」とアルファベット読みしてしまうところを、「マネックス」と読み上げるように調整しました。

ただ、これは逆に、失敗の話にもつながってしまうんです。それをすると、機械でアクセシビリティのチェックをしたときに、エラーで弾かれちゃうんですよね。今回エントリーしたWebグランプリでは、アクセシビリティ部門の一次審査は機械チェックでした。すると、ひと手間加えたところがエラーになって減点されてしまい、審査に落ちてしまったようです。

甲元 そこで点が取れていたらアクセシビリティ賞が取れていたのではないかという後悔が、伊藤さんの中にはあるんですよね。

伊藤 ものすごくありますね。一次審査を通過することができていたら、その工夫が逆に良いとされていたかもしれないですし。


社員のインタビューページ。写真を大きく配置し、文章量はスマホでも読みやすい分量に。1日の仕事の流れを時間割で紹介することで、仕事の様子がイメージがしやすいように工夫した

- よりアクセシビリティを向上させようとした結果、審査に落ちてしまったとするとモヤモヤしますね。でも、コーポレートサイト部門で優秀賞を受賞したんですよね。おめでとうございます!

甲元 最初に知らせを受け取ったときは、「え? 優秀賞?」という感じでした。そもそも前提として、我々がWebグランプリに応募したのは、マネックスがアクセシビリティを大切にし、障がいをおもちの方でもアクセスしやすいサイトをつくっているということをメッセージとして発したかったからです。つまりアクセシビリティ賞だけを狙っていたんですね。だからこそデザインも構成もプレーンなものにしていましたし、ほかの受賞サイトのように華やかで派手なサイトではありませんでした。今でもまだ不思議に思っているぐらいです。


イラストは、株式会社No.0(メンバー:鈴木麻子さん)に依頼。イラストをちりばめたおかげで、とても見やすいページに

山下 私は、『証券会社「なのに」』というギャップのあるデザインに仕上げたのが、いい意味で審査した方々のイメージを壊して、印象に残ったのかなと思いました。金融業界では採用サイト自体がないところも多く、その意味や重要性を理解して、理想を形にしたことが評価されたような気がします。

伊藤 甲元さんからすごく神妙な声で電話がかかってきて「伊藤さん...、Webグランプリ、優秀賞を取りました!」と言われたときに、いつもより3倍ぐらい大きな声で「マジで!?」って言いましたよね(笑)。まったく予想していなかったので、本当にびっくりしました。

濱端 一番びっくりしたのは、その後、伊藤さんと甲元さんが受賞についてやり取りしていたメールです。スレッドに途中から入れてもらったら、とにかく二人がものすごく喜びあっているやりとりがずらっと並んでいるんですよ(笑)。

甲元 そのスレッド、授賞式当日まで続いたよね(笑)。受賞の喜びをいろいろな言い方で表現しあっていました。

山下 私もスレッドを見ていましたが、二人のテンションが高すぎて、入り込めるような雰囲気じゃなかったです(笑)。

会社全体でアクセシビリティを追求していくきっかけに

- ちなみに、サイトリニューアル後の評価やWebグランプリを受賞した反響はありましたか。

山下 今がまさに就活の最盛期で、サイトのアクセス数が伸びるのはこれからになります。ただ、以前よりもアクセス数は向上していますし、今後も増加を見込んでいますね。サイトに来ていただいた方の満足度もおそらく上がると思うので、今後は我々が課題と感じている採用の動線の見直しをして、サイトの良さがより活きるように考えていきたいと思っています。

社内的にも、受賞はやはり大きなトピックになっています。例えば人事部で、今後つくっていくべきサイトの話になると、今回の採用サイトの見せ方を標準に置こうと言われるようになりました。目指すべきサイトという位置づけになっている印象がありますね。

甲元 グループ内各社のさまざまなサイトでも意識をもっていただいてアクセシビリティ対策を実装してもらうのが最終的な目的でした。今回残念ながらアクセシビリティ賞はとれませんでしたが、これを狙えるくらい追求したサイトとして、よい影響が与えられるフラッグシップになってくれたら嬉しいですね。

伊藤さんと濱端さん、それから今回は参加していないんですけれども、よく仕事をさせていただいているもうひとりのデザイナーの香川さん、それとマネックスに出向してくれているコーダーの馬場さん、ディレクターの中庭さんとは、とてもいいチームが組めています。僕としては、これからもモノサスのみなさんと、いいサイトをどんどん量産していきたいです。

- みなさん、本当に仲がいいし、信頼しあっていますね。甲元さんは、他のチームで仕事するときも、こんなに楽しそうな空気感の中でやってらっしゃるんですか。

甲元 いや、この感じは稀有だと思います。普段の私は広く管理を行なう立場上、むしろ指摘が口うるさくなりがちで面倒がられていると思います。他の仕事もこういう感じでやりたい気持ちはあるんですけど、実際にはなかなか難しいですね。モノサスさんとの仕事は、伊藤さんや濱端さんが盛り立ててくれるというか、マネックスや証券会社ならではの前提条件や課題をすでに理解していただいているし、その上で、先回りした提案をしてくれます。そうなると、どんどん次の話ができるし、雰囲気も良くなっていくじゃないですか。

伊藤 甲元さんは、モノサスのことをすごく大事にしてくれるんです。デザイナーさんの都合も気にしてくれるし、スケジュールもわざわざ内部を調整して合わせてくれる。それと打ち合わせのとき、デザイナーさんとクリエイティブについて話しているときの甲元さんがすごく楽しそうなんですね。それを見ているだけで、僕も嬉しいし楽しくなる。だからむしろ僕は、甲元さんがこういう空気感をつくってくれていると思っています。

- 甲元さんは、クリエイティブの話をするのが好きなんですね。

甲元 というか、ある「点」以上の話ができるのが嬉しいんです。伊藤さんの提案や濱端さんのデザインのレベルが高いから、前提的な話をすっ飛ばして、クリエイティブについて話をすることができる。そうすると、プロジェクトをもっと良くするためにはどうするかという話に最初から注力できるから、モノサスとの仕事はいつも楽しいのだと思います。

- ありがとうございました!こちらこそ、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

この投稿を書いた人

平川 友紀

平川 友紀ライター

フリーランスのライター。神奈川県の里山のまち、旧藤野町で暮らす。まちづくり、暮らし、生き方などを主なテーマに執筆中。

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