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12
Apr,2016
村上 伊左夫
投稿者:村上 伊左夫
(チェッカー)

2016年04月12日

小説やエッセイ片手に読書ブレイク
〜モノサスの「読書会」#03〜

図書だより

村上 伊左夫
投稿者:村上 伊左夫(チェッカー)

月に1度ひらかれるモノサスの読書会。

「各自が本を持ってきて、はじめの40分間で読む(本の途中まででもOK)」
「読んだ感想を、1人5分間でプレゼンテーションする」

という流れで進みます。(会の主旨は第1回をご覧ください。)

これまでは自己啓発やビジネス書など、硬めの本が中心でしたが、今回は小説やエッセイにカテゴリーをしぼって、本を選んでもらいました。

参加者は、菊永、松原、中庭、村上の4名。
前回のホットサンドに続き、中庭セレクトのマフィンや海老せんべいをお供に読書会スタートです。


 

発表タイム

40分間の読書タイムを終えたら、ひとり5分間でその本を紹介します。

26人の偉人から生き方のヒントを
五百田 達成『退屈な日常を変える 偉人教室』(紹介者:松原恵)


五百田 達成(著)『退屈な日常を変える 偉人教室』 文響社 2016 ( Amazon

松原 手に取ったきっかけは、本屋さん。前に読書会で読んだ『なんで水には色がないの?』の著者だったので気になりました。

「誰もが名前を知っているような歴史上の偉人達がその人生を振り返りながら、自らの言葉で生き方のヒントを教えてくれる講演会。いわば、偉人によるトークライブです」

という冒頭の説明のとおり、この本には26人の偉人たちが登場します。たとえば、坂本龍馬が出てきて「こんにちは、坂本龍馬です~」と彼の人生を語るんですが、成功例や失敗例などが面白く生き方のヒントにもなるし、名前だけ知っていた偉人たちの生き様もわかって一石二鳥でした。

中でもいちばんおもしろかったのは、近松門左衛門の「人生は流されるくらいでちょうどいい」というテーマの講演です。

彼は江戸時代の人形浄瑠璃の脚本家ですが、周りの人の影響で脚本家になり、人から読みたいと言われるものを書いていたら、それが結構売れちゃった、という人です。

まわりから妬まれることもあったそうですが、本人としては、そのとき求められることに精一杯応えただけでした。また、ただ言いなりになるのではなく、信念を持って『自分は武士である』という誇りを持って生きていたそうです。
そういう、譲れないものを持ちつつも、周りに流されるくらいで、人生はちょうどいいんじゃないかっていう話でした。

自分もあまり『これ』というのがないので、流されながら生きてみるのもいいかな、と思いました(笑)

村上 他にはどんな偉人がいるんですか?

松原 ナポレオン、野口秀夫、徳川家康、クック船長、ナイチンゲール、マリー・アントワネットにゴッホなど。時代も国もバラエティに富んだ感じです。

村上 徳川家康が好きなので、興味があります。

松原 家康は「健康だった」と書かれていました。すごく健康に気を使ってたらしいですね。

のぞかれたら終わり、そんな恐怖
三津田 信三『のぞきめ』(紹介者:村上伊左夫)


三津田 信三(著)『のぞきめ』 角川書店 2012 ( Amazon

村上 この本は、ミステリーとホラーを合わせたような小説で、語り手は「僕」という一人称ですが、おそらく著者本人です。
「僕」が、ある民俗学者が遭遇した怪異について書き残したノートを手に入れるところから話が始まるんですが、現実と創作の区別がはっきりしないところが面白そうだなぁと思いました。

この小説は二部構成になっていて、第一部の舞台は現代で、「僕」の知り合いの教師が体験した話。
その教師が大学生だった頃、夏休みのアルバイトで山奥のリゾート地に行き、別荘の管理人から「行ってはいけない場所」の説明を聞くんですが、こういうお話の常で、やっぱり行ってしまうんですね。そして廃村に迷い込んで怖い目にあって、なんとか戻っては来られたものの、その後もおかしな事が続いて‥‥というお話です。

第二部は昭和10年代で、民俗学者が残したノートを元に、第一部で出てきた廃村でかつて何が起こっていたのか、謎を解いていきます。

私は民俗的な話が好きなので、話の舞台が昔の習俗とかが色濃く残っている村だったりするところも面白いです。もちろんそういうところに住みたいわけではなくて、話を聞くだけで満足なのは、怪談と同じですが‥‥。

いまは第二部の主人公、つまり若いころの民俗学者がその村を訪れるところを読んでいるのですが、どういう展開になるのか楽しみです。

菊永 ジェイソンみたいなのが出てくるんですか?

村上 スプラッター的な描写はないですね。第一部では直接的に危害を加えられることはなくて、タイトルの通り「覗く」んです。そして覗かれた人が不可解な死を遂げる。四六時中、正体のわからないものの視線を感じ続けるという状況は、想像してしまうと結構恐ろしいですよね。

中庭 最後は人間が犯人だったりするんですか?

村上 まだ途中までしか読んでいないので、どうなるのかわからないですが、他の作品ではそういうのもありますね。ホラーなんだけど怪異を論理的に解釈して謎に迫っていく、というのも特徴の1つですが、最後まで説明がつかないことも残ったりします。
他にも「本」という枠組みを逆手に取った結末の作品もあり、面白かったですね。

現代美術家が筆をとるとこうなった
会田誠『カリコリせんとや生まれけむ』(紹介者:中庭佳子)


会田 誠(著)『カリコリせんとや生まれけむ』 幻冬舎 2012 ( Amazon

中庭 会田誠ってご存じですか?
村上隆や奈良美智と同世代の現代美術家で、『新ジャポニズム』の代表的な作家と言われています。
例えば、この表紙の絵。日本画のような滝の風景に、スクール水着姿の女子中学生がちりばめられています(笑)。
彼の作品は、美少女やロリコンを日本画とイラストを織り交ぜたタッチで描いたものや、戦争や政治的なテーマをアイロニカルに表現した奇抜なものが多いんですが、このエッセイ集もかなり面白くて。

出てくる話題は実家のこと、奥さんと子どものこと、住んでいる東金のこと、若いアーティストたちや現代美術のこと、あとは自分の好きな美少女とか趣味嗜好の話など。

そもそもこのタイトルはなんぞやという話ですが、「カリコリ」って何か想像つきます?何かの擬音かなぁと思うかもしれませんが、これは人に頭を掻いてもらう行為を指す会田家ならではの言葉で、自称・カリコリ中毒者の彼いわく、カリコリには「恍惚な実感」「魔力」「コミュニケーション行為」があり、その力は「戦争を抑止」したり「恒久平和を実現させ」たり「人類を根本的に救う」とのこと。

これってつまり、「コンセプト」そのもののカリカチュア(風刺)ですよね、と巻末で斎藤環さんが解説しています。
「戦争」や「平和」は、現代アートのコンセプトとして重視されるテーマですが、そこに対して「カリコリは戦争抑止、恒久平和を実現させるもの」と言い、現代アートのコンセプト自体をナンセンスなものにしてしまうなんて、さすがだなぁと思いました。

村上 特に面白かった話はなんですか?

中庭 ひとつは冒頭に「カレー事件」というエピソードです。「微妙に最悪な家庭」という会田の実家の話なんですけど、ここで育った自分のことを「失敗作」だって言っているんです。それをネタにして今アートで食いつないでいるんだな、しみじみ思ったりして。

ふたつめは彼にはADHDで学校に馴染めなかった息子(寅次郎)のことで悩む奥さん(岡田裕子)の話です。会田自身も子供の頃ADHDだったためか、息子を「星の子」と呼び、わりとポジティブに捉えているんです。かたや奥さんはすごく悩んでいて、夫の会田にグチを言うんですが、会田は「お前も表現者の端くれだったら、俺に愚痴を言うよりも文章にして世間に表現しろ」とか言って(自分が展示の準備で忙しくて書けなくなった)コラムを代打で書かせるんです。その奥さんの文章がまた面白くて…

松原 奥さんは文章を書く人?

中庭 いえ、奥さんも現代美術家です。奥さんと息子さんと家族3人で「会田家」というユニットを組んで、去年、東京都現代美術館で展示をしていましたが、「文部科学省に物申す」という檄文が話題になりましたよね。

松原 会田誠って可愛い女の子の絵が有名だから、そういう人だと思ってませんでした。政治家や評論家ではなく、アーティストとして表現することで、通常は言えないことも結構限界まで表現できるんですね。

中庭 俺なんかアホですよ~とか言いながら、ちゃんと作品に批評性を入れ込んでますよね。そして文章がとてもうまい(笑)。彼にとっては文章も表現のひとつなんでしょうね。

伝えている、一生懸命。
ロバート・ヘンライ『アート・スピリット』(紹介者:菊永真介)


ロバート・ヘンライ(著)、滝本 誠(解説)、野中 邦子(翻訳)『アート・スピリット』 国書刊行会 2011 ( Amazon

菊永 ロバート・ヘンライ(1865年-1929年)はアメリカの画家で、この本は彼の美術講義録を中心に、一部書簡やメモも掲載されたものです。

冒頭に「アートとは、人生である」と書いてあります。

どんな平凡な一日の中にも、幸せな瞬間や二度とない瞬間がいちどはある。それを見逃さずに捉え、どう作品に表現していくかということがアートであり、人生でもあるということなんですが、この本は「世の中の本質」を捉えようとしてる、と思ったんです。

例えば、美とは色んな物の関連性が成立してはじめて美である、ということも、人と人との関係に置き換えられます。読みながら絵の勉強にもなるし、美を通して世界の本質を追求できる。仕事にも活かせるし、自分は音楽をやってるのでそこにも通じると思いました。

そして、その本質というのは「情熱」だよね、と。
自分がこの本に惹かれるのも、この本からすごく「情熱」を感じるからです。この真っ赤な表紙からしても(笑)
僕は今、いろんなことを頑張ろうという気持ちはあるんですけど、「情熱」というものが自分の中にあるのか自信がなくなる時があって。だから、このロバート・ヘンライの言葉がとても響きました。

どうでもいいと思えば、ぼーっとして生きられる世の中じゃないですか。だけどそうじゃない。情熱がほしい。この本から刺激を受けながら、いろんな表現をしたいと思ってます。

村上 主題はアートについてなんですよね。

菊永 そう。デザイナーの人にも読んでみてほしいです。美について書いてあるんだけど、すごく言葉が熱いんですよ。ひとつテーマを決めて、それを生徒に一生懸命伝えている。
教え子には、エドワード・ホッパーやマン・レイもいたそうです。

中庭 菊永さんが曲を作るときも、この本のことを意識してるんですか?

菊永 結びつけようとしてるところはあります。自分が書く詩や曲は絵画的だと思っていて、ロジカルになっちゃうとその瞬間に嫌になって壊したくなる。だからなおさら、この人から勉強しなきゃいけないと思うんです。画家って感性が優れていればいいというわけじゃなくて、知性のない画家の絵は表面的なんですよね。すごく大事なんだよ、知性とか知識って。


読書会を終えて

あらかじめテーマを設定するという初の試み。エッセイや小説なら、仕事で疲れた頭もリフレッシュできたり、それぞれの趣味嗜好が垣間見られたりと、ひと味ちがう読書会となりました。

次回の読書会のテーマについても、さまざまなアイディアが出ました。ジャンルや読後感の気分をテーマにしてみる。オススメの本をそれぞれ持ってきて、他の人の本と交換して読んでみる、などなど。

次回の読書会は「部屋の中でこもって読みたい本」をテーマに行ないたいと思います。

この投稿を書いた人

村上 伊左夫

村上 伊左夫(むらかみ いさお)チェッカー

オタクになろうとしていた頃にかじったHTMLを活かしてチェッカーの道へ。本がある空間が好き。最近は生き物への興味を持ち始めました。

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