2016年09月13日
ビール片手に漫画夜話の時間です:後編
〜モノサスの「読書会」#07〜
モノサス読書会・特別編「居酒屋 漫画夜話」。後半戦に突入しました。
前半戦では、40年以上連載中の(まだ終わっていない)漫画、SNSで話題のインディーズマンガまで、ジャンルや形態もさまざまな作品が紹介されました。
後半戦メンバーは、そろそろ結婚を考えているバンドマン・菊永(マーケティング部)、足音がしないので気づいたら隣にいる心優しい図書委員長・村上(品質管理部)、いつも明るくたまに返事が適当な時もある加倉井(クリエイティブ部)、そして撮影係で写真には載ってません!編集長・中庭(デザイン部)の4名。
後編のラインナップはこちらです。
-
「これを読み終えたときに、オレは死ぬのが怖くなくなったんですよ。」
手塚 治虫 (著)『ブッダ』(紹介者:菊永 真介) -
ロボット好きの原点 オタク文化のベース
永野 護 (著)『ファイブスター物語』(紹介者:村上 伊左夫) -
子どものまま大人になったら、どんな気持ち?
入江 亜季 (著)『乱と灰色の世界』(紹介者:加倉井 宏美) -
とてつもない痛ましさと「何で人を殺しちゃいけないの?」の問いにさらされる
新井 英樹 (著)『ザ・ワールド・イズ・マイン』(紹介者:中庭 佳子)
それでは後編スタート!
「これを読み終えたときに、オレは死ぬのが怖くなくなったんですよ。」
手塚 治虫 (著)『ブッダ』(紹介者:菊永 真介)
- 菊永
-
僕がおすすめするのは、手塚治虫の『ブッダ』です。
読んだことありますかね。ない?30年以上前の作品で、手塚治虫も亡くなって結構経ってるけど、手塚治虫の最高傑作かなと、オレは思ってます。
『希望の友』『少年ワールド』『コミックトム』と、掲載誌が3つくらい変わったらしいんですけど、10年以上描き続けて完結してるんですよね。
- 菊永
-
なんでオススメするかって言うと、人間、なんで生きてるのかなーって、誰しも子供の頃考えるじゃないですか。その疑問に、ヒントを与えてくれるからです。
大人になるにつれて、現実的にならなきゃ、と考えるようになって。仕事のこと家族のこと人生のこと…人は現実に向き合って生きていくんだけど、なぜ人間は生まれてきて死んでいくのか、誰も本当の答えを知らないまま死んでいくんですよ、どんな人であっても。これを読み終えたときに、オレは死ぬのが怖くなくなったんですよ。
それは何故だったか覚えてないんですけど(笑)。いろんな登場人物がいるんですが、物語の序盤、ブッダが誕生するまで主人公的な役割を果たすチャプラという少年がいて。奴隷だった過去を隠して将軍の養子となり、のぼりつめようとするんですが、ついに王子に手がとどくということころでバレてしまうんです。
人としての平等とか、そういうテーマも語られているし、いろんな立場の人が出てくるし、最終的に、ブッダが仏様になって死んでいくところで終わります。幼少時代から歳をとって死んでいくまで。
で…全然まとまらないんですけど(笑)。人生において、何が現実なのかなって思うんですよね、たまに。
今も、この漫画を語らなきゃって思ったときに、それを考えた。やっぱり。あ、3分? 以上です。
- 田中
-
私も読みました。
- 菊永
-
全部読んだ?全巻もってるから貸すよ。けど、貸すと帰ってこないマンガがこれなんだよ。オレ3回買い直してるから。
一同 ええー!
- 菊永
-
まじで。すっげーいいから、人に全巻貸すんだよ。でもだいたい帰ってこない。
- 田中
-
死ぬのこわいとか、生きてるのやだな〜とか。めっちゃ根暗なところから始まってて。そういうのがすっと入ってくる感じです。
一同 へぇ〜
- 菊永
-
なんかこう、宗教的な色合いではなくて、哲学って感じなんだよね。
ロボット好きの原点 オタク文化のベース
永野 護 (著)『ファイブスター物語』(紹介者:村上 伊左夫)
- 村上
-
SFというか、ロボットものなんですけど、作者曰く「おとぎ話」らしいです。
ロボットと人間はもちろん、人工生命体とかも出てくるんですが、神様や悪魔も出てくるんですね。そういうところが「おとぎ話」なのかな、と。
そしてこの漫画は、なによりロボットがかっこいい。1巻のはじめにで出てくるロボットはしょぼいというか、かっこ良くなくて「ふーん、こんなのか…」って感じだったんですが、1巻の最後に出てくるのがいきなりかっこ良くなって、「おお、こんなロボットあるのか」と。
たいてい、ロボットって表情がないじゃないですか。だけどこの作品に出てくるロボットは、顔が動くわけじゃないけど、表情みたいなのがあるんですよ。なので出てきた時や、見せ場のインパクトがすごいんです。
- 村上
-
連載開始が1986年なので、初めて読んだのは中学生の頃だったんですけど、友達に読ませてもらって。それからしばらく忘れてたんですけど、バイトの先輩がもってて、全巻貸してくれたんです。
- 香川
-
完結してるんですか?
- 村上
-
してないです。まだ。
- 濱端
-
あ、まだしてないんですね。
- 村上
-
2006年に12巻が出て、去年9年ぶりに13巻が出ました。
- 香川
-
連載している媒体はあるんですか?
- 村上
-
連載は『月刊ニュータイプ』っていう...
- 加倉井
-
初めて知ったー!
- 濱端
-
ガンダム好きとかの人は、ここにたどり着きますよね。
確か、『キュベレイ』とか『リックディアス』とかのデザインしてる人ですね。
80年の後半って、いまのオタク文化のベースになるようなマンガが多かったんですよ。
- 加倉井
-
描き込みすごいですね。大変そう。
- 村上
-
それで時間がかかるみたいです。
設定もすごく細かくて、巻末に年表がついててそれに沿って進んでいくんです。
一同 うわー。設定すごい。
- 加倉井
-
全部読む人はマニアですよね。
- 村上
-
いやいや、読みますよー
設定好きな男子にはたまらないです。
子どものまま大人になったら、どんな気持ち?
入江 亜季 (著)『乱と灰色の世界』(紹介者:加倉井 宏美)
- 加倉井
-
ちょっとマニアックで、ヴィレッジヴァンガードに置いてあるようなマンガです。
絵柄がちょっと古いというか、懐かしいタッチで、あまり気が進まなかったんですが、友達に勧められて読んでみたら結構面白くて。しかもこのタッチが癖になり始めるんですよね。なにより女体がすごく美しい。
- 濱端
-
それ大事大事。
- 加倉井
-
人間界に住む魔法使いの一家の話なんですけど、お母さん(めちゃくちゃ美人)は魔女のピラミッドの頂点で、その娘の漆間 乱(うるま・らん)という小学生が大人の女性に変身しては、周りでいろんな事件が起こるんです。
一同 へええー
- 加倉井
-
乱はいじめられっ子でひとりぼっちの女の子なんですけど、大人用のおっきい靴をはくと一気に大きくなって、ボンキュッボンのお姉さんになるんです(笑)。
大人の女性の姿になった乱は大人の男性を好きになって、その人と両思いになるんですけど、ちょっとしたもどかしさや前向きに生きている感じとか、とにかく乱がすごくキラキラしてるんですよね。
- 加倉井
-
読んでいるうちに自分の小学生のころの気持ちと繋がっていく感じがして。元気がなくなった時は、その頃の気持ちに戻ろうと思いながら読んでます。
小学校で乱をいじめてる男の子が、実は乱を好きだったりとか。少女漫画にありがちな設定なんですけど、ぐっと来ちゃうんですよ。
女性陣 ああー
- 加倉井
-
絵がクセになる感じも、面白いです。変身シーンとかもすごく綺麗で、キラキラしてて。足一本とっても、すごく美しいというか。
- 中庭
-
ちょっと色っぽい感じですね。
- 加倉井
-
そうですね。女体は色っぽいです。
- 中庭
-
ジョジョっぽい感じもしますし。
- 加倉井
-
確かに、このドロローンとかビヨーンとか。
1970年頃のタッチなんですが、逆に新鮮に感じると思います。
この漫画のいち推しポイントは、なんといっても画力ですね。
とてつもない痛ましさと「何で人を殺しちゃいけないの?」の問いにさらされる
新井 英樹 (著)『ザ・ワールド・イズ・マイン』(紹介者:中庭 佳子)
- 中庭
-
これ知ってます?
『ザ・ワールド・イズ・マイン』。
- 和田
- 香川
-
あ〜きた~!
- 中庭
-
知ってるんだ!
これは新井英樹さんの大傑作。なかなかこれを超える作品はないなと思って、持ってきました。
最近上映してた『ディストラクション・ベイビーズ』という映画も、この漫画に影響を受けているそうです。主人公が無意味に喧嘩をしまくる映画なんですが、主演の柳楽優弥がこの漫画の主人公・モンそっくりで、映画観ながらずっとぞわぞわしてました(笑)。
- 中庭
-
この漫画は、”トシ・モン”というコンビが無差別に人を殺しまくる話で、トシは元・郵便配達員のオタクで、趣味で爆弾を作っていた青年。モンはピュアな目のまま無邪気に人を殺す殺人鬼。「モン」という名前はトシが梶井基次郎の『檸檬』からとってつけました。
二人は意味もなく北海道にむかって北上しながら、殺人行脚していきます。
殺す相手は悪人ではなくて、日常を普通に生きている人たち。善人でも子供でも容赦ない。
「ただそこに人がいるから」「命は平等に価値がない」と言って人を殺していきます。
殺されてしまう人たちの描写も克明で、すごく痛ましい。読み始めた時は「何なんだ?この漫画は?」と思いました。こんなに分厚いのが5巻もあって、ずっと怖いんです。一方で「ヒグマドン」という、ヒグマのような謎の巨大生物が青森から出現して…
- 加倉井
-
ヒグマ?熊なんですか?
- 中庭
-
熊というか、ヒグマが怪獣になったような謎の巨大生物で、人を殺戮していく動物です。やがてトシ・モンも遭遇するんですが、さすがにヒグマドンには勝てない。モンははじめて自分より強い相手に出会って、なんか目覚めてしまう(笑)。
ヒグマドンは絶対的な驚異というか、神聖化された何かみたいな存在で、ヒグマドンの前ではみんな無力。その時初めてモンは自分は無力なことに気づいて、最後、宇宙の彼方に飛ばされていくという。
- 加倉井
-
(笑)
- 中庭
-
謎の、宇宙的な(笑)漫画なんだけど、いろいろ、凄く深い。
映画の『時計じかけのオレンジ』や『ナチュラルボーン・キラーズ』的なメッセージも含まれてて、「何で人を殺しちゃいけないの?」という問いがあります。
テロリズムとか、戦争とかそういう話についても考えさせられるし、一大巨編というか、めちゃめちゃおもしろい漫画です。登場人物も魅力的で、人情派の刑事とか、ヒグマドンを狙うツワモノ老猟師とか、印象的な脇役たちがたくさん出てくるんです!
あ、もう時間過ぎてますね。つい熱くなっちゃいました(笑)。
まとめ
「漫画」がテーマということで、いつもと違う顔ぶれが集まった、居酒屋 漫画夜話。後半戦も、生死についての哲学的なものから、変身少女の話、ロボット好きの原点となる作品まで、これまた多様なジャンルが集まりました。
また、漫画ということで絵で想像できる部分もあり、読んだことのない作品についても話が盛り上がれるのが漫画の面白いところです。
それぞれの発表が終わったあとも、漫画への熱はそのまま『シン・ゴジラ』に持ち越され、しまいには漫画部と映画部を作ろうという話に発展。
実現されるかはさておき、漫画夜話、必ずやまた開催したいと思った次第です。
次回の読書会は、文化の日にちなんで「映画になった本」をテーマに読書会を開きます。
それではまた来月!