2017年07月21日
それぞれを尊重して受け入れれば、みんなが生きやすくなる
~「 Prism 」で出会った友人へのインタビュー #02 ~
こんにちは。品質管理部の乾です。
前回に引き続き、5月に開催された「東京レインボープライド 2017」でおこなったインタビュー第2弾です。
今回は Prism で出会った私の友人である、ぽんずくん・のんさんカップルのインタビューを紹介します。
2人とは前回紹介しました、法政大学 LGBTs サークル「 Prism 」 で出会いました。
ぽんずくんは Prism 設立時からの初期メンバー。のんさんは高校生のときに、代表のお茶漬けさんと SNS で知り合ったことをきっかけに Prism に入ったそうです。
ぽんずくんと私は同い年、のんさんは3つ年下。共通の趣味もあって仲良くなりました。
サークルでは、それぞれの悩みを相談することがよくありましたが、恋愛についての悩みが特に印象的でした。
「あの子がかわいい」「こんな人がタイプ」などキャッキャ、うふふと話をすることもありましたが、
「シスヘテロの人*1 よりも恋愛をすることが大変」「好きな人ができても報われたことがない」「恋愛する自分が気持ち悪い」など、マイノリティであるがゆえ起こることやうまれる気持ちについて語ったり、自分のセクシュアリティについて悩む人も多かったです。
恋愛をする上で困難なことが増えると思いますが、そんな中でも相手とめぐり合い、良い関係を築いているカップルがいるとうれしくなります。
ぽんずくんとのんさんも、私の身近にいる仲のいいカップルの1組です。
付き合って半年、ケンカをすることもあるそうですが、お互いのことを尊重しあい、信頼しあっていることが伝わってきました。
2人は周囲の人、社会に対してどんなことを感じているのか。
付き合ってから気づいたこと、悩んだことなどお話を伺いました。
ー まずは自己紹介をお願いします。
- ぽんずくん
-
今は大学を卒業してフリーターです。来春医学部を受験しようとしていて、予備校に通っています。セクシュアリティは FtM*2 です。
Female to Maleの略。女性として生まれたが、性自認は男性。男性として生まれ、性自認が女性の場合はMtF(Male to Female)という。
- のんさん
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大学2年生です。LGBTs と心理に関係することを勉強中です。セクシュアリティは、一概に言えないんですけど、パンセクシュアル*3 だと思っています。
男女の枠組みに関係なく、セクシュアリティを問わない全性愛者のこと。のんさんの場合はセクシュアリティを問わず、精神的なつながりを特に重視するそうです。
ー 2人はいつから付き合っているんですか?
- のんさん
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去年の11月からです。
- ぽんずくん
-
Prismで知り合ってから、半年で付き合いはじめました。
誰かと付き合えたり、トランスジェンダーを受け入れてくれる人がいるとは思っていませんでした。
ー 周りの人にはお互いをどんな風に紹介していますか?
- のんさん
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友達には「彼氏ができました、FtMの人です。普通とは違う形だけど幸せだよ」って自慢していて、お父さん以外の家族には言っています。
みんなちゃんと話を聞いてくれたし、特別感はなく「彼氏できてよかったね」と言ってくれました。
兄弟の LINE グループでも、ぽんずくんとケンカした話とか、写真を送ったりもしています。
- ぽんずくん
-
そういえば、のんのお母さんが東京に来たとき会いましたよ。
ー え!お母さんに会うってなかなかないと思いますが、どんな反応でしたか?
- ぽんずくん
-
普通に受け入れてくれました。
- のんさん
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帰省するたびにぽんずくんの話をしていたら、お母さんが会いたがってくれたんです。
ー すごくいい関係性ですね。お父さんには言わない理由は何かあるんですか?
- のんさん
-
高校生のときに「同性愛者ってどう思う?」ってお父さんに探りを入れてみたら、差別的な発言をされて...。
今でも考えが変わってないのかなと思っています。
彼氏だけど体は女の子だから、何か言われたら嫌だし、聞かせるのも申し訳ないから、お父さんにはまだ言わないです。
ー そうなんですね。友達はどうですか?
- のんさん
-
「え~!おめでとう!」って感じです(笑)。
周りはポジティブな反応をしてくれるのでありがたいですね。
ー それはよかったですね。ぽんずくんは家族や友達には話していますか?
- ぽんずくん
-
カミングアウトは家族全員にしていますが、彼女ができたことはお母さんにしか言っていません。
でも「そうなんだ」くらいで流された感じでした。
たぶん、誰と付き合うというよりも、まだ自分の子どもがトランスジェンダーということを受け入れられていないんだと思います。友達には、自分がトランスジェンダーと知っている人には言っていて、受け入れてくれています。周囲には受け入れられてはいるけど、のんほどではないのかな。
- のんさん
-
自分の周辺が積極的に受け入れている方だと思うので、ぽんずくんの周りの反応のほうが一般的だと思います。2人とも周囲に否定をされないので、もっと受け入れて!とかはないです。
ー そうなんですね。普段も困っていることは特にないですかね?
- のんさん
-
そうですね。だけど、周りの人に紹介するときは悩みました。
どれだけ受け入れてくれそうな家族や友だちでも、ヘテロの人なら「彼氏、彼女できた」とサラっと言えそうだけど、自分がぽんずくんを紹介するとき「この子の性別なに?」って思われたりとか、一人の人としてみるんじゃなくて「性同一性障害の子」って印象を強く持たれるんじゃないかという不安がありました。それから自分は性に嫌悪感があって、周りにもノンセクシュアル*4 かもと言っていて。
それなのに「なんで性に嫌悪感のない人を彼氏にしたの?」とか、付き合う=性と結び付けられるのがつらいです。
非性愛者のこと。他者に対して恋愛感情は抱いても、性的欲求を持たないことをいう。
- ぽんずくん
-
自分はカミングアウトしてる人には言いやすいけど、カミングアウトしてない人には、彼女ができたということに対して、「なんで女の子なのに彼女ができるの?」という反応をされたり、レズビアンと勘違いされることもあったり、混乱されるので言いにくいです。
のんの紹介に限らず、自分のセクシュアリティとか、カミングアウト全般は信用できない人には言いにくいと思っています。それ以外は、日常的に困っていることはあまりないですね。
- のんさん
-
2人で電車乗ってるときに席譲ってもらえたりとか、すごくにこにこして見られることがあるので、普通のカップルだと思われてるのかなと思います。
ー 普段はないけど、こういう扱いをされると嫌ということはありますか?
- ぽんずくん
-
2人で北海道に行ったとき、ホテルの予約を自分の本名でしていたから、ピンクのかわいい浴衣を出されてしまって...。
少し困ってしまったけど、知らないからしょうがないよねと思いました。露骨にあれこれ言われると嫌だけど、自分のセクシュアリティを知らない人の方が多いので、ある程度は我慢しないといけないことはあると思います。
- のんさん
-
「嫌な目線向けられた」と言っている人をネットでみて、最初はすごく構えていましたが、実際はそんなことありませんでした。知り合いのカップルも幸せそうな人が多いです。
バイト先の店長にも「 FtM の彼氏がいたら、周りから何か言われることもあるだろうし...」と言われましたが、普通のカップルとして扱っていいのにと思います。
時々、ぽんずくんは戸籍上は女の子だったんだ…とか、将来結婚はできないのか…と思ってしまうくらいで、普通に男の子と付き合ってる感覚でいます。
- ぽんずくん
-
当人同士は普通なので。
ー 意外と周りが気を使いすぎているのかもしれませんね。マイノリティ同士だからこそ良いことってありますか?
- ぽんずくん
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悩みもいろいろと説明しなくてもわかってもらいやすいし、話が早いです。
- のんさん
-
まじめな話もできます。
セクシュアリティに関係ない話でも、「この話はぽんずくんに話せば大丈夫」みたいなこともあります。
変わってきた社会への期待と、まだまだ感じるギャップ
ー ぽんずくんものんさんも、今日は昨年に引き続き2回目の東京レインボープライド参加ということですが、何か楽しみにしてきたことや、目当てのブースなどはありますか?
- のんさん
-
特定の何かを楽しみにするというよりもフラッときました。
全体の雰囲気をみて、今年はこんなに盛り上がってるなぁという感じです。
- ぽんずくん
-
テレビでも取り上げられたりするし、ここ数年で変わってきたと感じます。
ー どのくらい前から変化を感じますか?
- ぽんずくん
-
2、3 年前では考えられなかったな。
この前もニュースで、「週末に LGBT のイベントがある」と普通のニュースと同じようにスッと取り上げられていて感動しました。
世間のタブー視されていたところがはずされてきた感じもします。
大学生になったときは就職もできないと思っていたけど、今は希望がみえてきました。
- のんさん
-
最近はみんな知ろうとしてくれているように感じます。
友達と LGBT の話をしたときに「代々木公園でパレードとかやってるよね」と言ってくれたことがあって。今までにない初めての反応だったので嬉しかったです。
ー のんさんの出身はどちらですか?地方だとこのようなイベントはないんですか?
- のんさん
-
和歌山です。
札幌とか大阪とか、大都市ではあるけどかなり少ないですね。
偏見がひどくて、息をするので精一杯という地域もあります。セクマイ(「セクシュアルマイノリティ」の略)の人に会おうとしても、大都市にばかりいるし、地方の学生はなかなか友達ができないと思います。私はそうでした。
東京に行こうと決めたのも、LGBT の勉強がしやすいと担任の先生に後押しされたり、SNSで知り合った人もいるから居場所はあるな、大丈夫だなと思えたからです。
ー 周りの環境って大きいんですね。昔から友達などには相談していましたか?
- のんさん
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高校2年生のときに、もしかしたら女の子のことも好きになるかもと思って悩んだときに、1番仲が良かった友達にカミングアウトしちゃいました。そのあと母親にも。
大学でも仲のいい人には言っています。
「この人は女の子にも恋するんだ」っていう認識をされていると思うし、たぶん気も使われていないはずです。
- ぽんずくん
-
自分は誰にも相談しなかったし、言いたくありませんでした。
女性として生きてくことが嫌で、自分のセクシュアリティを受け入れられなくて。
トランスジェンダーとも思いたくありませんでしたが、ジェンダークリニック*5 に通うようになってから、自分と向き合えるようになりました。
だんだんと自分がどうなりたいのかわかってきて、もっといろんな人と関わりたいと思ってサークルに入ったんです。
ー こんな人には相談したい、こんな人には言いたくないというのはありますか?
- のんさん
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フォビア*6 的な発言をしている人には絶対言わないですし、障がいのある人に偏見があったり、何かのマイノリティに対して攻撃する人にも言いたくありません。
近年は嫌悪という意味で使われることが多い(英 phobia )。否定的な価値観から、差別や暴力に発展する場合もある。
ー そういうことを言われたことはありますか?
- ぽんずくん
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直接差別的な発言をする人はあまりいないけど、笑いのネタにする人はいます。
- のんさん
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私もありません。だけど、学校の先生が「そこ仲良しすぎでホモかよ」とか「オカマ」とか言っているのは、小中高、全部でありました。
- ぽんずくん
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最近は NPO の講習を受けたり、先生方も変わろうとしているみたいです。
- のんさん
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教育現場が変われば、社会全体が変わるんじゃないかと思います。
ー 一般企業では何ができると思いますか?
- ぽんずくん
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何かをお願いするときに、どこまでなら OK で、どこからがわがままになってしまうのかがわからなくて困ってしまいます。
バイトを探していたときは、男性の制服を着たいとか、通称名で働きたいなど伝えていて、店長さんは理解してくれたんですが、本部の許可がおりませんでした。
海外では制度が進んでいるところも多いので、日本の企業もがんばってほしいです。
- のんさん
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社内研修で LGBT について取りあげることも増えてきたみたいだけど、クローゼット*7 の人は居づらくなる場合もあるみたいです。
認知されないから楽という考えの人もいるし、「 LGBT 」と一括りにされているけど、感じ方はそれぞれだし難しいなと思います...。
自分自身のセクシュアリティを隠していること。
- ぽんずくん
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ある企業にインタビューされたとき、「 LGBT だけ特別視するのはどうなんだろう」という話になりました。特別視するのではなくて、人種とか宗教とか、いろんな属性の 1つとして LGBT を入れてはどうかという提案をしました。
それから、そこはベンチャー企業だったので、まだ結婚したときの制度がなかったんです。だったら異性婚と同性婚の制度を一緒に取り入れればどうかという提案もしました。みんなが持つ問題を同時に考える機会になればいいと思います。
ー いろんな工夫ができそうですね。今日で 東京レインボープライド は最終日ですが、イベント期間中の盛り上がりと、日常生活とでギャップを感じることはありますか?
- のんさん
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去年すごくあった!
去年は上京してきたばかりだったので、セクマイの人たちにたくさん会っていました。
自分の周りがセクマイだらけだと思いましたが、学校に戻るととやっぱりマイノリティなんだということをすごく感じました。
- ぽんずくん
-
会場からでると、いつもの世界だなって感じます。
代々木公園が異世界みたいでさみしいです。
ー そうなんですね。こんなことが日常的になってほしいということはありますか?
- のんさん
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具体的に何か行動してほしいというよりも、意識や発言を気にしてほしいです。
- ぽんずくん
-
障がいがあると働けないとか、日本はマイノリティに対して特に厳しいと思います。
セクシュアリティに関わらず、その人の個性を尊重して受け入れれば、みんなが生きやすい社会になると思います。
自分のことも、相手のことも受け入れる
インタビュー中、ぽんずくんは「社会に受け入れられるようになってきた」と言っていましたが、それは彼自身が自分のことを受け入れたからだと私は思っています。
ありのままの状態を素直に認めたうえで、どうしたいかを考えて行動に移せば、おのずと道が開かれるということを彼から学びました。受験がんばってください!
また、のんさんの前向きに物事を捉え、周囲の人に感謝をしながら生活をしているところを私はとても尊敬しています。
そんな彼女の「将来結婚はできないのかとか思う」という発言にはショックを受けました。
このショックは、結婚ができないから幸せになれないということではなく、シスヘテロの人たちが望めばできることを、彼女はできないということに対してです。
結婚のみならず、あらゆる社会制度は、ヘテロセクシュアルであることが前提になっていると感じます。
現在国内では、同性パートナーとの関係に法的保障はありません。
パートナーでも病院で面会を拒絶されたり、葬儀では親族席に座れないということがあるそうです。
7月6日に設立した「 LGBT 自治体議員連盟」の発足会見で、東京都文京区議の前田邦博さんが同性愛者だと公表しました。
前田さん自身も15年前パートナーと死別し、制度や社会の理解がなく、つらい思いをしたそうです。
「 LGBT はどの世代、どの地域にもいる。社会から孤立しないように支える仕組み、制度を作っていきたい」*と語っています。
これまで18年の議員生活で、公表できなかった理由を「怖かったから」と話していますが、支援者にも「当選のリスクになることは避けてほしい」と言われたことがあったそうです。
それでも「社会を動かしたい」という思いから公表した勇気は素晴らしいと思います。
LGBTに関する報道が増えたり、言葉の認知が広がったりしていますが、そのためか
「LGBTの人って増えたよね」という人がいます。
可視化されてきたからそう感じるのかもしれませんが、いることを知らなかっただけで、数が増えたり減ったりしているわけではありません。
LGBTブームとも言われていますが、ただのブームで終わらせず、その先の生活について考えていく必要があります。
社会を動かすほどの大きなことはできなくても、日々の生活でできることがあるはずです。そのひとつが「受け入れる」ことだと思います。周りにいる人や状況、自分が望むことを受け入れられたら、少しずつ変化が起こると思います。
これは LGBT に関することだけではなく、仕事や人間関係など、あらゆることに活用できる万能なスキルではないでしょうか。
みなさんにもぜひ試してみてほしいと思います。